三幕その五:作戦会議
ツヅキの持つ時間移動デバイスは腕時計のような形をしており、それは彼女の手首に装着されている。残念ながら、それは一つしか無い。
つまり、未来へ送り飛ばせるのは一人だけだ。
対して軍人の数は数十は確認されている。これではどんなに四則演算のルールを歪めようと努力したところで数は合わない。一に続く等号の先は、何があろうと一なのだ。
「問題無いわ」ツヅキは自信満々に言った。
「その心は?」と鶴見先輩。
「逃げ続ける中であの真世界軍の部隊事情が何となく掴めた。おそらく軍によって正しく訓練を積まされているのは隊長・副隊長クラスだけで、他の部隊員は素人の一般人徴兵あがりね。その辺もアタシの知る真世界軍と大して変わらないわ」
訓練を積んでいない兵士とは、何となく身に覚えのある所感であった。
「この規模の部隊ならおそらく……部隊は一つでしょうね」
唯一戦争の渦中に生きてきたツヅキが言うのなら間違いは無かろう。
「つまり部隊長を探し出して未来へ送り飛ばせば良いんだな?」
「ええ、残りの兵士は指揮系統を失い混乱するはず。それなら魔法少女やこの時代の警察組織にでも任せれば良いわ」
方針は決まった。あとはそれを実行するのみだ。
「え~っと、やる気になってるとこ申し訳ないんだけど……誰が部隊長かなんて分からないんじゃないかな? そもそも、その部隊長とやらがこの周辺に居るとも限らないし」
勘の鈍い鶴見先輩だな。俺達は確かに遭遇している。自分のわがままの為なら強引なやり方も厭わない、自分が誰かに指揮されるのを嫌うどころか想定さえしていなさそうなじゃじゃ馬女にさ。
「ツヅキが誰かの命令で動くと思いますか?」
「アタシ?」
「お前であってお前じゃない、もう一人の方だ。アイツだって山覚ツヅキなんだ。だったら部隊長なんて肩書を背負ってるのはアイツに決まってるでしょう」
「ちょっとどういう意味よっ! 前にも言ったけど、アタシはどちらかと言うと参謀タイプなんだからねっ!」
どの口が。参謀タイプの奴が未来を変える為に独断専行単身で過去に飛ぶはずが無いし、世界を思い通りにできる兵器を自ら奪いに来るはずが無いだろうが。……それと、お前の言う〝前〟ってのを俺は覚えてないんだ。おそらくだが、その時も同じような感想を抱いただろうな、俺は。
それに公園での状況を思い出せ。目の前に目当てのブツがありながら、アイツはどういうワケか一度は奪取ではなく破壊を試みた。しかも自分の手ではなく、俺に任せようとしたのだ。そしてそれが叶わないと分かっても、銃でも【Ark―E(vil)】でもを俺に突き付けて脅せば良かったものをそうはしなかった。温情だとか言っていたのを俺は忘れてないぜ。そんな指揮系統から九〇度直角オーバーに外れているとしか思えない交渉を一下っ端兵に許されると思うか?
それは逆説的に、アイツが上からの命令によって動く身分ではないという証明材料にもなるはずだ。あれだけの作戦目的に反する──あるいは遠回りする──ような行動を取ってもお咎めが無いのだから彼女こそが部隊の指揮官であると、俺は判断する。それも下手すりゃ、軍内でもそこそこの立場のはずだ。
「そうと決まれば急ごう。ツヅキを誘き出すぞ」
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