第3話 悪いことをしたらいつかわかるものなのです

私は知っている。

犯人はあいつだってこと。


ここで整理する。

状況

1、2限と3限の間の休み時間に起きた。

2、紫色の蛍光ペンは、2限が終わった後、机に置かれていたのは、澪が証言していて確かだ。

3、佐竹が職員室から戻ったら、机の上からペンは消えていた。

4、その間、クラスメイトも含め、他のクラスの生徒の出入りもない。

5、隣の席の澪は、席にいたが、佐竹が席を外している間、佐竹の机に背を向けて友達と話していたので、何も見ていない。

6、佐竹の席に近づいたマリを見たと、澪と話していた早希が証言している。早希は、澪の正面にて、ちょうど佐竹の席がよく見えた。他にも男子が目撃していた。

7、昨日の放課後まで、どこにもなくて手に入れられないと言っていたマリが、佐竹の机からペンがなくなった後持っていた。(目撃者クラスメイト全員)


マリの証言

1、父親から買った。

2、今日の朝からずっともっている。自分のものだ。


どう考えてもマリの部が悪い。

それでも、マリは、悪びれる様子もなく、堂々と、私のものだと主張している。


確かに、決定打がない。

朝からマリが、紫色の蛍光ペンを持っていたか誰も見ていない。そして、持っていなかったことも誰も証明できないからだ。

自分が持ってきたペンだと本気で信じていたとしたら、切り札を出して私のペンだと証明できたとしても、「いつの間にかすり替わっていた。このペンが私のだって本気で思っていた。私のペンがどこかへいってしまったのかも。ごめんなさい。もしかして佐竹さんが…?」などと言われてしまえば、ここまでマリが犯人という状況証拠が提示されていても、ひっくり返ってしまうかもしれない。

ありもしないペンを、あると信じさせれば、マリの勝ちだ。私が言いがかりをつけたことになってしまうだろう。

結局は、頑張ってみたけど、今回もやっぱりいつものように、私が悪くてマリが正しくなってしまうのだろうか。

マリにうまく丸め込まれてしまうのだろうか。

いつものように、そう周りが評価するのだろうか。


しかし、今回は違った。


「いつも不思議だったんだ。真面目な佐竹さんがあんなに毎回マリにわたしのだから返してって、言い掛かりなんかつけるかなあって。だってさ、こないだ私のノートに飲み物こぼしちゃったのね。ほんの少しだったし、気にしないでいいっていったのに、わざわざ買ったお店聞いてくれて、同じの買って謝ってくれたの。」

この間、グループ学習で同じ班になった貴子が声を上げてくれた。


「そう言われてみれば、こないだマリに貸した消しゴムまだ返してもらってない。もう使い古しだしいいかって思っていたけど。」

他にも同じようなことをしていたらしい。


真面目で煙たがられてると思っていたけど、日頃の行いが、私を少しずつ助けてくれることもあるのか。初めてだ。なんだか嬉しい。


そこに、委員長が名乗りをあげた。

「マリさんが盗った云々は別として、今、マリさんの手にあるペンが、失くなった佐竹さんのペンかどうかは、佐竹さんのお父さんの会社名がペンに書かれていれば、はっきりするってことよね?私が代表して確認させてもらってもいいかしら?」


「そうだな。それが一番手っ取り早い。」

クラスメイトたちが

「それがいい」とみんな口々に賛成する。


「佐竹さんもそれでいい?」

委員長が私の前に立ってそう言った。

「うん。お願いできますか?」

よろしくお願いします。私は委員長に頭を下げた。

「じゃあ、それ貸して。見比べてみるから。」

一本不在の蛍光ペンケースを委員長に手渡す。


「それじゃあマリさんも。」

マリは抵抗しようとしたが、クラスメイトの視線に諦めたように、委員長に紫色の蛍光ペンを手渡した。


委員長がよく見比べる。

「見づらいけど、たしかに書いてあるわね。これは間違いなく佐竹さんのこのケースに収めるべきペンです。」

そういうと、5本揃った蛍光ペンケースを委員長は私に渡してくれた。

「ありがとう!大切なものだったの!」

戻ってきたことが嬉しくて笑顔になる。よかった!これだけは守れた!


「それで、マリさん、これはどういうことなのかしら?」

「知らない!すりかわったんじゃない?だって私が持ってたのは、確かに父から買ったもので、同じ蛍光ペンだったんだから。」

「たしかに、マリさんがお父様から買って朝から持ってたというのは、持ってなかったって証明もできないから、本当なのかもしれない。それでも、佐竹さんのペンをあなたが持っていたのは事実だわ。」

「そんなの知らないわ!私のよ!私は朝から持っていたの。いつの間にか入れ替わっていたんだわ。ね、みんな私の方を信じるでしょ?」

マリは周りを見渡して言った。

「そうよ!わかったわ!私を陥れるために、佐竹さんが仕組んだのよ!そうよ!みんな信じて!わたしは盗んでなんかない!!佐竹さんが…」

「それ以上は言わない方がいいと思うわ。」

委員長が忠告した。

マリがはっと周りを見渡すと、しらっとした目を向けられていることに気づいたのだった。


「佐竹さん。今回のことは先生に報告して、然るべき対応をしてもらおうと思う。その前に、佐竹さんの心は、マリさんをどうしたら許せるかしら。」

委員長は優しい。私の心にも気を配ってくれる。

「私は、今マリさんの筆箱に収められている私のシャープペンや、三色ボールペン、そのほか、私から同じ手段で奪った全てのものを返却して謝って欲しい。」

「それは当然の権利ね。マリさん、明日必ず佐竹さんから盗んだものを全て学校に持ってきて、佐竹さんにお返しすること。それから、謝罪は今して。」

私は何も盗んでいない。マリはそうつぶやくだけだった。

「ふう。」

委員長はため息をつくと

「みんな、この話はこれでおしまい!あとは私と佐竹さんに任せて解散!」

委員長の号令で、みんなヒソヒソ話しながら席に戻っていった。


次の日の朝、段ボール箱いっぱいの荷物が私の席に置いてあった。

小学生の頃、叔母からもらった誕生日プレゼントも返ってきた。

あんなことがあっても返してくれないだろうと、期待していなかったので、戻ってきて嬉しい。


クラスメイトは、こんなに…と半ばあきれた声を出し、マリを見た。

マリは、

「本当は私のだけど、佐竹さんにあげるのよ!」

と、クラスメイトたちに言っていた。


その後、先生から指導を受けても、親が学校に呼ばれて父親から買っていなかったことも分かったが、それでも自分がやったことはついぞ認めなかった。

マリは、「佐竹さんが私を陥れるためにでっち上げたことです。私は何もやっていません。父が私に売ったことを忘れてしまっただけです。」と言い続けた。


最初はそれでも、「クラスメイト全員の前で糾弾するなんて、いくら悪いことをしたとしてもマリが可愛そう」「もしかしたら本当に自分のと間違えただけかもしれないし。」といって、マリに同情する子もいた。

けれど、自分のやったことを認めず、人のせいにする態度を続けるマリから、一人二人と人が消え、誰からも信用を失い、最後には一人になっていた。


この事件から、委員長と話すことが増え、気づけば友達になっていた。

委員長はいつもクラスの中心的な存在で、私には眩しかったけれど、話してみると、とても話しやすくて、文房具好きなところも気が合った。

今では、辛い過去と現実と未来をなんとかしようと頑張ったご褒美に、神様がくれたキッカケだったのではないかと思っている。頑張ったから結果が違ったんだ。私の手には紫色の蛍光ペンがある。教科書の大事なところを、今も私に知らせてくれている。私が初めて守れたもの。そして、親友と呼べる友達ができた。


委員長が、1人うつむいて座るマリの背中を見ながら、ぼそっとつぶやいた。

「あの時一言謝って入れば済んだかもしれないのに…。機会を逃してしまったわね。」


私もマリの方を見た。今までの私はあんな感じだったかもしれない。

誰も信じてくれなくて、一人ぼっちで悲しくて、いつも俯いていた。


あの時、いつも私に向けられていた視線を初めて浴びたマリは、どんな気分だっただろう。

「そうだね。でも今からでも遅くはないと思う。声を上げればきっと、その先の未来は変わると思う。」

私の今回の出来事のように。マリの未来もきっと。

「そうね。マリさんは、素直に謝れない子だからね。」

委員長が、そういって笑顔をくれた。

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認めなかった代償 私、声をあげました 雲母あお @unmoao

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