第2話 私、声をあげました

私は知っている。

犯人はあいつだってこと。


いつもは、かさばるからケースに入れてこないけれど、昨日の今日だから、なんだか嫌な予感がして、5色セットだった蛍光ペンの入れ物に全色入れて持ってきた。ケースの台紙には入っていたペンの写真もある。今は消えた紫色以外の4本が収められている。

このケースは切り札だ。

そして、マリが昨日の放課後、私に持ってないからよこせと駄々こねたのを見てたクラスメイトたちもいる。



「澪、やっぱりない。大切なものなのに。」

私は周りに聞こえるようにわざとらしくならないように注意しながら、大きな声で隣の席の澪に話しかけた。

「どこに行っちゃったんだろうね?」

澪は、辺りを見回す。

「どうしたんだ?」

「佐竹が何か無くしたんだって。どんなやつ?」

「紫色の蛍光ペンなんだけど…」

私は、床を見つつマリに近づく。

「2限と3限の間の休み時間に消えちゃったのよ。」

澪が補足する。


マリが慌てて筆箱の中に何かを入れようとしているのが見えた。


「マリさん、知らない?」

「え?」

突然、私に声を掛けられて動きが止まる。

みんなが一斉にマリを見た。

その手には、紫色の蛍光ペンが握られている。


「あれ?それ?」

みんなが注目している。

「拾ってくれたの?」

これで返してくれれば、もういいや。そんな気持ちで助け舟を出したつもりだった。が、マリから返ってきた返事は、想像したのと違っていた。


当たり前のように紫色の蛍光ペンを筆箱におさめようとしていたが、

「え?これ私のだよ。また言い掛かり?」

紫色の蛍光ペンを取り出すと、私に見せながらそう言った。


また同じ。

マリは、今回も同じ手で私から奪えると思っている。この状況でも、自信満々にそう言い放った。

いつもはここで声を出せないでいるけど、今回は違う。私は声をあげる。どうしても今マリの手に握られたペンを取り戻す。


「それどうしたの?昨日それよこせって私に言ってきたよね?どこにも売ってなくて手に入らないからって。」

「!?」

クラスメイトの視線が、私とマリを行ったり来たりする。

そんな視線に動じず、

「どうでもいいでしょ。佐竹さんには関係ないと思うけど。」

「関係あるよ。」

「なんで?」

「私は、私の紫色の蛍光ペンをどうしても取り戻したいから。」

「は?だからこれは私のだって言っているでしょ。」

イラッとした顔を向ける。

今回は、絶対に怯まない!

「関係なくないよ。2限まで私が使ってた。職員室から戻ったら机の上から紫色の蛍光ペンが消えていた。そして、私の机から消えた後、探しているのと同じ蛍光ペンをマリさんが持っている。」

「へえ、だから?落としたんじゃないの?」

クスッと笑って御愁傷様!見つかるといいわね。とか言っている。

「みんなに確認なんだけど、2限と3限の間の休み時間に他のクラスの子がで入りした?」

「してないと思うぞ。」

「ということで、ペンが消えた時間帯、うちのクラスの子しかここにいなかった。」

「なんだ、俺たちも疑うのか?」

「違う。状況を整理しているの。聞いてもらえるかな?」

お願いをすると、

「そ、それならまあ。」

と、認めてくれた。

「私が戻った後も他のクラスの子は来なかった。ペンが消えた現場にいた人物はクラスメイトのみ。そして、昨日まで、どこにもなくて手にいれらないからと、私の鞄を勝手に開けて紫色の蛍光ペンを持っていこうとしたマリさんの手に、マリさんが欲しがっていた、私が持っていたものと同じ紫色の蛍光ペンは握られている。」

「じゃあ何?私が盗んだとでも言いたいの?間違っていたらタダじゃ済まないことよ!」

マリは、声を張り上げて言った。

「まあ、確かに、持っているだけで犯人というのは乱暴だな。昨日の帰り、お店に寄ったら偶然同じものが売っていて買えたってこともありうるよな?」

クラスメイトの1人が口を出した。

「そうよ。買ったのよ。」

その話に乗っかって、マリはそう告げた。すると、また別の、マリの近くにいたクラスメイトが、

「新品に見えないけど? 」

というと、みんなもペンを見て、

「確かに。もうペンの模様が薄くなっていてよくわからないな。」

口々に話す。

それはそうだろう。私が2年半使い込んでいるペンだ。持つ部分の柄が薄くなっている。

すかさず、マリは、

「これ、もらったの。」

と言った。

「今買ったっていってたけど?」

新品に見えないって発言したクラスメイトが、マリにさらにつっこんだ。

「もらう時お金払ったから買ったっていっただけ。」

すかさず返事をするマリ。

「誰から?」

「誰でもいいでしょ?」

どんどんクラスメイトたちが疑問を口にする。それに対してうまく答えてかわしていくマリ。


こんな状況でも、私を嘲るように見ながら、有利に進んでいくよう話をするマリにイラッとして、

「誰から買ったの?私のじゃないか確認させてよ!」

思わず、強く出たら、

「また佐竹、マリにつっかかってるのかよ?」

「同じペン持ってるからって人を疑うのどうかと思うぞ。」

「マリが買ったって言ってるじゃないか。それともお前盗んだところ見たのか?」

「本当は今日家に忘れたんじゃないのか?」

「マリのせいにするためにお前が自分で隠したんじゃないか?」

昨日の目撃者が、クラスメイトたちが、またマリの肩をもつ。


「マリが持って行ったのは見てない。その時席にいなかったから。でも今日も使っていて、職員室から戻ってから探しているけれど見つからないの。ね?澪?」


名前を呼ばれたクラスメイトは、

「うん。たしかに佐竹さんが職員室にいく前まであったよ。綺麗な色だねって声かけたら貸してくれて、ほら。」

紫色の蛍光ペンで線がひかられた2限のノートのページをみんなに見せる。

「ね?綺麗な色だよね。」

澪も気に入ったようだ。これも偶然の産物。今日は珍しく私に風が吹いているようだ。この風に乗ってやる!澪は説明を続けていた。

「で、それをかえしたら、佐竹さん先生に呼ばれてそのまま机に置いて出て行ったの。佐竹さんが教室に戻ってきた時も隣の席にいて一緒に見たよ。たしかに無くなっていたの。佐竹さんがどっかに隠す時間なんてなかったし、そんなことしてなかった。それに、あのペン机の真ん中に置いてあったし、机が倒れたわけでもないし、床に落ちるような状況じゃなかったんだけどな。それでも一応床見たけどやっぱり見つからなくて。」

澪が私をみて、

「どこ行ったんだろうね?」

と、また目配せしてくれた。

状況を話してくれてありがとう。

そう気持ちを込めて軽く頭をさげると、ニコッと笑い返してくれた。



「そういえば、佐竹がいないあいだ佐竹の席にマリが立ってるのみたな。」

私の席の列の一番後ろに座っている男子が、思い出したように口にした。

「私も!澪と話している時みた。」

澪の友達の早希も見かけたらしい。


「え?」

その声を聞いて、また、みんなマリに注目する。


「ほかに佐竹の席に近づいたやつは?」

誰も首を横に振る。


「おれ、昨日の放課後、持ってないって、だから、佐竹にくれって言って断られているマリの姿を見た。なら貸してっていってそれも断られてた。」

「どこにも売ってなくて見つからないって、マリが佐竹に言ってたよな?」

疑いの目が、どんどんマリに向けられていく。


マリは、その視線を受けて、

「だ、だからもらったのよ!」

焦ってもう一度もらったと言った。

すると、クラスメイトたちが口々に

「誰に?」

「何も問題ないなら言えよ。」

マリに質問をする。


すると、良いことおもいついたという顔をしたマリが、

「父に!」

と、答えた。

どうやら昨日私が言ったことを思い出したらしい。


「お父さんなら隠す必要もないだろう?」

「なんですぐに言わないんだ。」

少しずつ、マリに不信感が向けられていく。


「マリ、さっきお金払ってもらったっていってなかったか?父親からもらうのにお金払うか?」

というクラスメイトの疑問に、

「い、家の事情でしょ!?うちはそうなの!」

と答えた。

マリは、まだ逃げる。


そしてやっぱり決め台詞

「なら、佐竹さんのだって証拠はあるの?ないなら私のよ。だって今私の手にあるのだから。」

でた。マリのおはこ。


「偶然だね。私も父にもらったの。5色セットで。」

一本足りないケースをみせる。切り札の出番だ。


「私の父は、〇〇株式会社なの。」

「だから何?」

突然父の会社名を言い出した私をイラついた目で睨んでくる。

人のものを盗っておいて、よくこんな態度ができるな。

「私の父とマリのお父さん、同じ会社で働いてないよね?」

「は?」

「うちの父は建設会社。マリのお父さんはデパートに勤めていたわよね?」

「そうだけど。それが何?」


「私の持っているケース見てもらうとわかるんだけど、この蛍光ペンセットね、実は父の会社の創立30周年を記念して作られたものの一つなの。」

「それが何?」

「だから、父と同じ会社の人しか持っていない。私が使い込んだせいでよく見えなくなってしまっているんだけど、このケースにかかれた会社名と30という数字がかかれているのよね。当然ペンにも。」

「え?」

マリの様子が明らかに変わった。

「だから、確認のためそのペンを見せてくれない?私のじゃなかったら謝るわ。でも、私のだったら返して謝って。今まで同じようにして私から取り上げてきたものの分も全部!」

どう言うこと?

クラスがざわつく。


「なんで見せなきゃいけないの?もし佐竹さんのではなくても、渡したら返さないつもりなんでしょ?」

「それはいつも私にそうしてるから、同じことされないか不安なの?」

「ひどい!佐竹さん」

マリはいつもの嘘泣き。

するとクラスが二手にわかれはじめた


「こんなみんなの前で可哀想。」

「マリ泣いちゃったよ。」

「本当にマリのかもしれないのに。マリのだったら、佐竹さんどうするつもりなのかな?」


また、私に非難の声が浴びせられる。

マリが嘘泣きの下で、私にだけわかるようにちろっと笑ってベーと舌を出した。

いつもみんなは私の味方。あんたの味方には誰もならないよーって言ってるようだ。


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