認めなかった代償 私、声をあげました

雲母あお

第1話 消えた紫色の蛍光ペン

私は知っている。

犯人はあいつだってこと。


私の紫色の蛍光ペンが机から忽然と姿を消した。


あれは、今日の2限と3限の休み時間のこと。

「佐竹、職員室にプリント取りに来てくれ。」

先生から呼ばれて、机の上を片付ける間も無く教室をでた。

そして、職員室から戻ると、それはなくなっていた。


大切なものなのに。

犯人は見当がついている。


それは昨日の放課後のことだ。

「好きな人が同じペン持ってるから私にちょうだい。」

と、勝手に私のカバンを開けて筆箱からそれを取り出そうとしたクラスメイト。

「大切なものだからあげられない。私のだよ。勝手に触らないで。」

そういって鞄を取り戻すと、

「あんた彼女でもないのにお揃いのペンなんか持ってるんじゃないわよ!」

と、つかみかかってきたのだ。

「何言っているの?」

理屈が分からない。

「ああ、佐竹さんは恋愛とか分からないか。彼とお揃いのものを持っていると誤解されちゃうから、あなたのためにそれもらってあげる。」

すごい理屈だ。恐ろしい。


このペンには私も思い入れがある。中学入学の時、父がプレゼントしてくれたものなのだ。

「父からのプレゼントなの。私にとって大切なものなのよ。」

「父とかファザコン?気持ち悪い。紫色の蛍光ペンどこを探しても見つからないのよ。あの人とお揃い持ちたいの。渡しなさいよ!」

ものすごい剣幕だ。

そこへ、教室に数人のクラスメイトが入ってきた。

すると、ころっと態度を変える。

「お願い!どうしてもそのペンが欲しいの。特に使ってないって言ってたじゃない?買ったばかりのこのペンと交換してくれない?ね?お願い〜。」

媚びるような目で、いつの間に用意したのか、ピンクの蛍光ペンを私の目の前に突き出していた。しかも、特に使ってないなんて一度も言ったことなんてない。

「…」

私は、教室を後にしようとする。すると、後ろから腕を強く掴まれた。

「じゃあ一日だけ貸して!ね?貸すだけならいいでしょ?お願い!ちゃんと返すから!」

そういうと、わざとらしいほど深く頭を下げて動かない。

周りから、

「貸すだけならいいじゃん。」

「貸してやれよ。こんなに言ってるのに佐竹冷たいな。」

みんなマリの味方する。


いつもそう。

そうやって、貸すしかない状況を作り、貸したら二度と返ってこない。

今回みたいに席を外している間に持って行かれたこともある。それも一度や二度じゃない。もう泥棒と言っていいレベル。

過去に、物を奪われるたび、返してと言うけれど、

「これ私のだよ。」

と言われて、

「何言っているの?これ私のだよ。返して。」

掴んで持って行こうとすると、

「え?泥棒さん?」

「何言って!?」

私の方を泥棒扱いしてくる。そしてマリは、私の手を掴むと、

「最初から私のだけど?何?佐竹さんのだって証拠ある?証拠もないでしょう?そうやって私のものが欲しくて言い掛かりつけてくるの前から変わらないね。私のことが好きなのはわかるけど怖いよ?そんなことしなくてもぼっちの佐竹さんと仲良くしてあげるからさ。」

そう言って笑った。

取り巻きも私を見て笑う。

「ほら、マリに返しなよ。」

みんなマリの言葉を信じる。


辛い、悔しい。


今回はそうはさせない。

絶対に。

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