議事録4『安斎先生への苦情について(あるいはバスケにのめりこむ魔王)』

会長「はーい、今日も展政てんせい高校生徒会定例会議はーじめーるよー。さて今日の相談は『安斎先生が名字の読みが同じなのをいい事に『諦めなさい。もう試合終了だよ』とテスト後に言ってきます。ウザったいので辞めるよう言ってください』……えっと、これ生徒会で議論する内容かな……?」


勇者『どうなんだか』


魔王「そもそも話が見えん」


会長「あー、魔王は某バスケ漫画に出てくる安西先生って知ってる?」


魔王「シラーヌ・ド・ゾンゼーヌだな」


会長「ちょっと偉人っぽく言うんじゃないやい。……えーとね、安西先生っていうのは有名なバスケ漫画に出てくる監督なんだよ。で、その安西先生の名台詞が『あきらめたらそこで試合終了ですよ』なの。うちの高校の安斎先生はそのバスケ漫画の安西先生と名前の読みが一緒だからって、台詞パクってるってわけ」


魔王「そもそもバスケとは何だ?察するに何かの競技のようだが」


会長「そこからかいっ! あー、バスケってのはバスケットボールの略でね、地球じゃ人気のスポーツだよ。5人対5人のチームで争うんだけど、各陣地にあるバスケットっていう籠みたいなやつにボールを通すことで得点になるわけ。その得点をチームで競い合うの。……ってか体育の授業でやんなかった?」


勇者『コイツがマトモに授業受けてるところ見たこない』


魔王「座学は歴史と化学以外は興味ないな」


会長「確かに歴史と科学は興味ありそうだけど……他の授業も一応まともに受けよ? 先生泣いちゃうよ?」


魔王「定期考査とやらで常に百点を取っているが、それでは不満か?」


勇者『おま、魔法で覗き見してんだろ』


魔王「国語だの英語だのは、言語理解のスキルがあれば悩むまでもない。数学は教科書で理屈さえ頭に入れれば造作もない。他も似たようなモノだ。だが、先ほど挙げた二つの授業は、単純に興味深い。いずれ習うという公民とやらも楽しみだがな」


会長「納得せざるを得ないのになんか腑に落ちないな……」


勇者『まぁ異世界人って所詮そんなもんよ。会長』


会長「異世界人はスキルさえ取ればなんでもできちゃうからイイデスネー。自力で覚えるしかない地球人にちょっとスキルシステムの恩恵分けてクレナイカナー(棒)」


魔王「ならば我が眷族になるか? スキルの恩恵にあずかれるぞ」


会長「ならんっ!! 嫌な予感しかしない!」


魔王「賢明だな。それはそうと、勇者。件のバスケ漫画とやらを読ませろ。どうせ、アイテムボックスに収納してあるだろう。まずは読まなければ話にならん」


会長「いやいや、流石の勇者でも20年以上前に完結した漫画なんて持ってるはずが……」


勇者『アイテムボックスなんてねぇよ。でも、頑張って揃えておいた。ほらこれ』


魔王「褒めて遣わす。では、我は読むのに集中する故、しばし会議は任せるぞ」


勇者『へーい。んで、こんなんでどうするよ。会長』


会長「いやあるんかいっ!! ……というツッコミは置いといて、先代会長が2回くらい控えめに『ちょーーーっと控えてください』って言ったけどやめてくれなかったんだって」


魔王「……ふむ、この赤髪が主人公か……」


会長「安斎先生は安斎先生なりにフレンドリーさを出そうとしてるっぽいけど……今のところ生徒から『うざったい』以外のコメントを聞いたことがないんだよなぁ」


勇者『努力が空回りしちゃうタイプのちょっと可哀想な人よねぇ』


会長「うーん。対策を立てるなら、努力の方向性を軌道修正してあげた方がいいのかな……?」


勇者『そうだろうね。だいぶ昔の作品とはいえ名作をあんなんされたら、不快な人も出るやろ。何よりタイミングの性格の悪さが問題なんだろうけどね』


魔王「……会長、分身魔法を使う許可をくれないか」


会長「え? 急に何で!?」


魔王「オレが漫画を読み進めてる間に、分身にボールを持ってきてもらおうと思ってな」


会長「この魔王、やる気だ」


勇者『増えてまでボール取りに行く必要はねぇよ。いやそもそもここでバスケ始めんな』


魔王「では、我が自ら取りに行くとしようか。すぐ戻る――」


勇者『出て行かんでもこっちで取り出せるわ!!』


会長「いやストップ! 魔王バスケにハマりすぎじゃない!?」


魔王「漫画の内容を理解するには、まず体験してみなければな。……とりあえず、分身でドリブルを再現してみるか」


勇者『ここで増えんな!!』


会長「ってか魔王がドリブルしたら生徒会室の床が抜けそう!!」


勇者『あまりに酷かったら第四の壁破って魔王の方引きずり出して良いか?会長』


会長「お断りします。そうぽんぽん第四の壁破られたら世界が融合しちゃうでしょ」


勇者『既に融合しかけてるんだけど』


会長「これ以上の融合はこの世界の先住民代表として阻止させていただきます」


魔王「……なんと、この主人公も分身ができるのか!フンフンディフェンス……ふむ、面白い」


勇者『だーらおめぇは黙ってろ!!!』

  『ごめん会長、魔王。なんだった?』


会長「今虚空に話しかけてた気がするけど聞かなかったことにしておこうか。えっとね、魔王さんはちょっとバスケにハマりすぎじゃないかなって思うの」


魔王「ちょっと黙っててくれ、手元が狂う」


分身「ドリブル、あなどりがたし……!」


会長「やってるよこの人!!」


勇者『生徒会室の下校長室なのわかってる?』


魔王「あのハゲに、今更我へ意見するほどの気概は残っていまいよ」


勇者『前に談判しに行ったついでに記憶改ざんしておいたから、普通に来るぞ。あんな記憶残らされてたまるかってんだ』


会長「しれっと改ざんするな!!」


魔王「構わぬ。来たら校長を肉団子にしてボールの代わりにしてくれよう」


会長「うわぁ……。魔族がやる球技って感じ。めちゃくちゃド偏見で申し訳ないけど、魔族に対して頭蓋骨でフットボールしてそうな印象がある」


勇者『会長。ここまで来ると事案だ。事が起こったら神器取り出すから抑え込み手伝ってくれ』


魔王「……ふむ、もう一巻分読み終えたか。次は二巻だな」


勇者『頼むから読むんだったら落ち着いて読んでくれ』


会長「ねえ勇者。学食の時に魔王にかけてた呪いあるじゃん? あれ今かけられる? それで大人しくした方が手っ取り早い気がしてきた」


勇者『たぶんかけれる。でもあれ結構エネルギー消耗するから、ブドウ糖入りのラムネかブドウ糖の塊みたいなの大量に欲しい。最悪炭水化物ならなんでもいいけど』


会長「昼休み食べ損ねたおにぎりしかないや。具は鮭とたらこ」


勇者『とりあえず貰っておく。けど、持って1時間くらいだからもしかしたら買い出し頼むかも。……自販ってまだ入ってないっけ?』


魔王「搬入はまだ先のはずだ」


会長「そうね。まだもうちょっとかかるっぽい」


勇者『スラ○ン2巻はどうした魔王。にしても、自販がまだだとなるとちょっと辛いか。コーラがあると楽だったんだけどな』


魔王「なかなか熱いな。たまには漫画も良いものだ」


勇者『いつの間にやら読むの再開してるし』


会長「ものっそい夢中になってる……。まぁ、取り返しのつかないことになりそうだったら抑えるの手伝うよ。ところで安斎先生どうする? フレンドリーに接するならもっと他にも方法があると思うんだよね」


勇者『てかあの先生何担当だっけ?』


会長「国語」


勇者『有名曲で覚える古語とかやってた方がよっぽど教員としても良いと思うんだけど』


会長「確かに。違う古典の先生は『仰げば尊し』の歌詞使って已然形教えてたけど、普通にわかりやすかったなぁ」


勇者『あとは普通に生徒一人ひとりしっかり見て、質問されたらしっかり答えるが出来てれば良いと思う。難しいからこうなってるんだろうけどね』


魔王「そうだな、この漫画の安西先生とやらのようにな」


会長「……うん?」


勇者『???』


魔王「なんでもない、続けてくれ」


勇者『ん』


(数分考える)


勇者『というかすごく根本的な話なんだけどさ。安斎先生のあのセリフって、どういう心理が由来して言ってるか分かる?』


会長「……そういえば考えたことなかったな」


魔王「単に格好つけてるだけか、好きな台詞を脳死で唱えているだけなのでは?」


勇者『あるいは、嫌がらせ的に使ってるとか』


会長「なるほどねえ……どっちにしろ生徒の事あんまり考えてないって言うのは問題ではあるね」


勇者『まぁ言われても変えてこなかった辺り察するところはあるよね』


魔王「生徒代表として、教師陣に意見書提出でもするか?」


会長「うんうん、そうすれば流石の安斎先生も改めそうだよね。あと……他の人が安斎先生と似たような事してる様を見せて正気に戻すっていう手もあるんじゃないかな」


勇者『真似して気付かせるってやつあまり機会が無いから向かないというか難しいと思うんだけど、その辺実際どうなん?』


魔王「そもそもそんな発言連発してる人間に、羞恥心がどれほど残っているかだな」


会長「うーん……確かに現状だと羞恥心の欠片もなさそうだけど……。でも、似たようなことしてる姿見せることで自分を客観視させるってのは有効だと思うんだよね。それにほら、うちの高校他にもそういうことする先生いるし」


勇者『居るの!?』


魔王「やはりここの教師陣は一掃すべきでは?」


勇者『それはダメだろ』


会長「そう簡単に一掃しようとするんじゃなーい!! ……いや、いるんだよ。物理の道良どうら先生」


勇者『どこかで聞いたことあるような気がする。その名前』


魔王「かつてドイツで考案された列車砲だな」


会長「あぁいや、このドーラはアニメ映画に出てくる海賊船長のおばあちゃんだよ。主人公がさらわれたヒロインを助けるために海賊の仲間になろうとするシーンがあってね、そこでおばあちゃんが承諾して『40秒で支度しな!!』って言うのよ。で、道良先生は授業で何かと『40秒で解いてみな!!』とか『ここで使う公式はなんだい? 40秒で答えな!!』とか言ってくるの」


魔王「馬鹿の見本市だな」


勇者『絶妙にうざったいな。ちなみに列車砲の方のドーラは80cm砲って言う戦艦大和の主砲よりでかい馬鹿みたいな直径の大砲だよ。ルパ○三世のアニメとエヴ○ンゲリオン新劇場版:序にも出演してるよ』


会長「いや何で勇者はそっち知ってるの!?」


魔王「……」


勇者『なーんか覚えあったから記憶探ってみたら思い出した』


会長「お、おう。……まぁ道良先生は40秒の間に教科書見ても許してくれるから『安斎先生よりはマシ』っていう評価っぽい」


魔王「…………」


勇者『マシだがトントンだな!!』


会長「でも安斎先生今年うちの高校来たばっかだから、道良先生の授業知らないのよ。だから一回道良先生の授業見せて、共感性羞恥呼び起こしてみたらどうかなと会長は思います」


魔王「…………………」


勇者『なるほど。後で手筈整いやすくなるよう調整しとくわ。色々』


会長「おっけー、頼むわ。……そして魔王、さっきから静かだけど大丈夫? 頭痛いの?」


魔王「今漫画が良いところなのだ。邪魔をするな」


会長「まだ読んでたんかいっ!」


勇者『とりあえずしばらく置いとけ。コイツは』


魔王「美しいシュートだ」


会長「そうだね、そっとしとこっか。……安斎先生問題についてはもう話すことなさげかな」


勇者『かもんしんね』


(数分後)


勇者『拘束する呪いまだかけておかなきゃならなさそうか?これ』


会長「うーん……この調子なら急にドリブル始めたりシュート打とうとしたりはしてこなさそうだね。会長権限で解除許可を出します」


分身「そろそろドリブル疲れた」


魔王「次はレイアップだな」


会長「まだやってたんかい!!」


勇者『ほんとに解除していい?』


会長「うーん、やっぱダメ!」


勇者『あいよ。じゃあちょっと近くのコンビニまで行ってさっき言ってた奴買ってきて。そろそろキツイ』


会長「おっけー、ダッシュで行ってくるわ!!」


勇者『ありがとう!!』

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勇者と魔王がいる生徒会!?~貴様らの嘆願、我々が解決してやろう~ 東美桜 @Aspel-Girl

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