episode4_2

 確かにもう公開できるほど『episode1』と『episode2』『episode3』は書けていたと思う。新作投稿するときに設定する小説のカテゴリーや、紹介文なども簡単にはできていたし、あとはもう少し見直して公開ボタンを押すだけだと思っていた。でも、まだ『episode2』の下書きには、【公衆電話の太郎くん呼び出し方法】の追加事項が適当な文章で、メモ書きしたままだ。敬太がうちに来る前に、急いで書き足した、あのメモ書き。


「やだやだ、やだぁ。そんな、恥ずかしいって〜」


 声に出しながらマウスを急いでその『episode2』に向かわせクリックをすると、画面上に横書きの小説が現れた。昨日の午前中に無意識で書き進めた自分に驚きの声をあげた、あの文章だ。


 とりあえず、流し読みをしながら下まで急いでスクロールし、【公衆電話の太郎くん呼び出し方法】が箇条書きにしてあるところまで移動する。この一番下に、後でちゃんと書き直そうと、思いついたアイデアをメモ書きしたはず。


「あった。ここからだ。えっと……」


 マウスの動きをゆっくりにして、慎重に慎重にと下へ読み進めていく。




【公衆電話の太郎くん呼び出し方法】


※用意するもの(太郎くんの器となる男の子の人形、自分が生まれた年の十円玉、緑色の公衆電話)


①緑色の公衆電話に深夜二時から四時までの間に行く。

②受話器を持ち、自分が生まれた年号の十円玉を公衆電話に入れる。

③自分の携帯電話に電話。四回コールを鳴らす。

④受話器を置き、携帯電話の電源を切って帰宅。

⑤しばらくすると電源の入っていない携帯電話に公衆電話から電話がかかってくる

⑥電話に出て「太郎くん太郎くん、ようこそわたしの家へ」と言う。

⑦太郎くんが返事をして、用意していた男の子の人形に入り込む。

⑧男の子の人形に入り込んだ太郎くんが自分の名前を呼び、遊びましょと誘ってくる。

⑨男の子の人形に返事を返し、抱きしめる。太郎くんとの契約成立。

⑩生贄にしたいモノの名前を言い、太郎くんに叶えてほしいお願いを伝える。


『願い事の大きさに比例した生贄を用意すること』


!注意!

◉公衆電話の太郎くんからの着信を拒否してはいけない。

◉願い事の大きさと生贄の命の重さが釣り合わない時は、契約者の周りから太郎くんがそれ相応の生贄を選ぶ。

◉一度始めた太郎くんとの契約はいかなる場合も破棄できない。





「え……? ちゃんと書き直してある……?」


 メモをしたはずの『』内の文章が、書き直されている。それに、その下の『!注意!』に関しては、全くもって書いた覚えがない。


「わたしが書いた? え、でも、ずっと寝てたはず……だよね?」


 もう一度最初から、ゆっくりと読み進めて確認する。

 確かに最後まで書けている気がする。


 WEB小説を書いていることは、敬太に話していない。だから敬太がいる時はパソコンは立ち上げない。それなのに、書き殴ったメモ書きは文章が整い、さらには追加項目まで増えている。この現象をどう捉えればいいのか。


 ——自分で書いたってこと……だよね?


 それしか考えられない。

 でも——。


 しばらく腕を組み「ううむ」と考えを巡らせる。昨日の夜、敬太が寝静まった後、ひとり夜中に起き出して、パソコンに向かい自分で書いたとしか考えられない。となると——。


「天才かっ!」 


 前回もそうだったけれど、どうやらわたしは無意識に小説を書く能力があるみたいだ。と、思ってはみたものの、そんなわけはないかともう一度考えを巡らせる。自分で書いた覚えのないものが書き進められ、そして勝手に公開されているのは、どう考えてもおかしい。であれば——。


 誰かがわたしのサイトを乗っ取ったのではないかと思い、その確認はどうやってしたらいいのだろうかと悩む。運営さんに連絡をすれば、乗っ取られたかどうか、調べてくれるのだろうか。


 とりあえず、考えていてもすぐに答えは見つからないと、『公衆電話の太郎くん』の編集ページに移動することにする。右上のワークスペースと書いてある小さな文字をクリックし、小説編集画面に切り替えると、『公衆電話の太郎くん』を選択する。


『小説▷公衆電話の太郎くん』と左上に表示される編集ページに画面が切り替わり、その下にある四角いエリアを見て、思わず「うそだ……」と声が漏れる。


『読者からの反応』が出ているその四角いエリア。フォロワー数や、応援数、PV数などが載っているその四角いエリアの数字に目が釘付けになった。


 フォロワー数は『3』。これはきっとこのサイト上で仲のいい執筆仲間だろうと理解できる。応援数は『9』。これもいま三話更新しているのだから、三人のフォロワーさんが全てに応援ボタンを押してくれたんだと、理解できる。


 でも——。


「PV数が、333!? え? うそ、なんでなんで?!」


 信じられない気持ちでその数字をしばし見つめ、その後で細かく一話ごとのPV数を見てみることにした。画面右端に視線を移動して、小さな数字を探す。


「えっと、えっと、あった。んんと……」


『episode1』『episode2』『episode3』、その右横に〔111PV〕と数字が小さく書かれている。と、いうことは、単純に考えて、111人の人がいま公開しているお話を読んでくれたということだ。


「うそでしょ……。こんなことって今までなかった……」


 今までは小説を新作投稿しても、せいぜい仲のいい執筆仲間が応援してくれるだけで、こんなPV数が着いた作品はない。それも、新作を投稿してすぐになんてことはなかったはずだ。


 信じられない気持ちで顔をパソコンから遠ざけ、「ふぅ〜」と呼吸を整える。天井を見上げ、背中を伸ばした後で、見間違いではないかともう一度パソコン画面に視線を戻した。と、そこでまた気づくことがあった。


「え……?」


 公開中の『episode3』の下に、続きのエピソードが下書き保存してあったのだ。


 


 

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