黄色のカーディガン 💛👕

黄色のカーディガン 💛👕

　武士の甲冑（かっちゅう）には潔く死におもむく覚悟がこめられており「この時代のいでたちは人間そのものより人間的だった」とする司馬さんが『平家物語』を引用され……。

　――九郎義経その日の装束には、赤地の錦の直垂（ひたたれ）に、紫裾濃（むらさきすそご）の鎧（よろい）きて、鍬形（くわがた）うつた甲（かぶと）の緒しめ、黄金（こがね）づくりの太刀をはき、切斑（きりう）の矢おい、しげ藤（どう）の弓の鳥打（とりうち）を、紙をひろさ一寸ばかりにきつて、左まきにぞまいたりける。

　兄・頼朝の指示のもと、この華麗ないでたちで鎌倉から上洛して御所を訪ねた若き美武者の一団に後白河法皇は「ゆゆしげなるもの共哉。みな名のらせよ」と命じた。

　――まず大将軍九郎義経、つぎに安田三郎義定、畠山庄司次郎重忠（筆者：ヒューヒュー！！（笑））、梶原源太景季（かじはらげんたかげすえ）、佐々木四郎高綱、渋谷馬允重助（しぶやうまのじょうしげすけ）とてを名のつたれ。（中略）鎧はいろいろなりけれども、面魂（つらだましい）事柄（ことがら）いづれもおとらず。

　　　　　　🏇

このくだりを読んで、自分もその場にいたように胸をときめかさぬ読者があろうか。

のち、太閤秀吉の御前に着飾って出陣した伊達政宗も形無しの呈といったところか。

現代の人気役者やタレント並みに、沿道にひと目見たさの娘さんが居並んだのでは？

そう、つい先秋、岐阜市で行われたキムタクの信長行列さながらに……。(´ω｀*)

　　　　　　🌻

　話はがらりと変わるが、ひふみさんは太陽のように明るくてきれいな黄色を好む。

　自分に似合うかはさておいて（笑）清楚な女性の薄手のカーディガンをとりわけ。

　菜の花、たんぽぽ、ラッパ水仙、チューリップ……春を象徴する花はみんな黄色。

　希望の色を着た女性たちが軽やかに闊歩する時節が待つからこそ冬に堪えられる。

　　　　　　　🧥

　クローゼットから厚手のダウンコートを出すつもりだったが、手前で指が止まる。

　ずいぶん処分したけどまだいくらか残っている半コートのひとつ、デニム素材の。

　ジムへ通っていたころは「あら、それ、いいね、あなたに似合うわよ」と言われてまんざらでもなかったが、コロナ以降はスポーツバッグともども出番がなくなった。

　もうお引き取り願おうかなと思っていたその一着、にわかに哀れに思われて来る。

　あれほど風雨を防いでくれたのに「はい、ご苦労さん」で終わらせていいのか？

　いたって健康で病院と縁がなかった壮年男性が、都会への出張から帰って来た夜に発熱し、そのまま入院しわずか数日で……そんな話を聞くと、やはりコロナは怖い。

　思い立ったときに出さなかったら、もう二度と着てやる機会がないかも知れない。

　姿見に映してみると、一見、ジム時代と変わらないが、傍目には如何に。（笑）

　　　　　　👗

　ついでにクローゼットを確認すると、最も奥まった場所に数十年来の洋服が数着。

　吝嗇にしては奮発した（笑）スーツやドレスが、寸分変わらない姿でそこに居る。

　丹念に織られた繊維のひとつひとつに数えきれないほどの哀歓が絡みついていて、とりわけ、公私ともに辛かった時期の裏ぎりの傷、いまでもじくじくと疼いている。

　でもさ、自分では気づかずにそっくりな行為をして来た事実もあったかもね……。

　冷静にそう思えるようになっている現在を知り、なんだか少しだけ、ほっとする。

　デザインはオーソドックスだし、通気がよかったらしく新品同様の姿かたちだし、とつぜんパーティへのお誘いが届いても（ないけど（笑））困らないだろうね～。

　　　　　　🦖

　久しぶりのデニムコートを羽織ってカフェに着くと、いつもの花壇に直行する。

　晩生の白薔薇が微かな風にちりりんとそよぎ、そのうしろには早生組の応援団。

　応援団の花群れはこぞって枯れ色に染まっているが、晩生には白い部分が多い。

　よくがんばって咲いているね、茶色も増えて来たけど、それはそれで美しいよ。

　腰をかがめて囁きかけると、早生軍団も晩生もいっせいに笑顔で応えてくれる。

　これからやって来る北風と雪の季節、みんなで肩を組み合って乗り越えようね。

　人間や動植物がいくら抗っても抗わなくても、いつだって四季はめぐって来る。

　であれば、来たる春には希望が復活しているかも知れないのだから、ねえ。🌺