第60話 話し合い

 ゲイル殿の騒動から一週間ほど経ち、俺は忙しく働いていた。


 住民の家の補修作業や雑用をしつつ、主に住民に聞き取り調査を行っていた。


 こうすれば、相手も雑談の合間に意見が出てくる。


 俺が預かったお金とはいえ、これは民のために使うと決めたお金だ。


 だったら、その意見を蔑ろにしてはいけない。


 そして一通り意見をまとめたら、モルト殿と話をする。


 ちなみにその側では、セリスとサーラさんがソファーでお茶をしている。


「……ふむ、兵士や冒険者誘致については概ね好意見が多かったか。しかし、問題点もある」


「そうですな。やはり、荒くれ者が多いという印象が強いのかと」


「治安を守るために呼んで、その者たちが治安を乱しては本末転倒ということか」


「はい、仰る通りです。しかし、最近の出来事を考えますと……」


「ああ、わかっている」


 魔物や妖魔の活性化は更に進んでいる。

 俺もこの一週間で二回ほど出動し、討伐を行っていたくらいだ。

 全域をカバーするのは無理なので、戦える者の誘致は急務だ。


「となると、民を安心させる材料が必要になりますな」


「俺が目を光らせておくと言っても限界があるか」


「はい。それに、領主であるアイク様には他に仕事がございますから」


 すると、サーラさんが手を挙げる。


「アイク様、意見を言ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、無論だ」


「では……まずは面接すること。そして、アイク様の実力を見せれば良いかと。冒険者や兵士達は強い者に敬意を払いますし、恐れから下手なことはしないでしょう」


 今度はセレナが手を挙げたので、促すように黙って頷く。


「多分、普段通りのアイク様でいいと思うんです。実際に、アイク様の部隊は敵国であっても評判が良かったですから。お父様が調和を結ぶ際に、物凄く助かったと言っていました」


「ふむ……俺が直接見張らなくても、その存在を示していけば良いと。確かに、俺の部隊において略奪行為などは起きなかったな」


 何せ、戦場では血がたぎる。

 普段はそんなことしない者も、略奪に走ってたりしてしまう。

 そんな時は、俺が喝を入れてきた。


「どうやら、話はまとまりそうですな。では、最初だけアイク様にお任せしてもよろしいですかな?」


「うむ、戦士の力量も知りたいしな。剣を交えれば、大体の人柄もわかるというものだ」


「大丈夫ですよ。最悪、何か問題を起こしたら私が消しますから」


 そのサーラさんの言葉に、俺達が凍りつく。

 正体と実力の一旦を知った今、それは冗談にはは聞こえない。


「そ、そうならないことを祈ろう」


「そ、そうですな!」


「ふふ、そうですね」


「もう、サーラったら」


 おそらくだが、場合によっては俺でも危険な相手だ。

 いやはや、彼女が味方で良かった。


「コホン……後は、それをまとめる人物が必要になるか」


「街の警備隊に関しては、ガルフ殿でよろしいかと。ガルフ殿は街から出ませんし、皆の信頼も厚いですから」


「うむ、そうだな。ガルフなら、俺との連携もしやすい。村々の警備に関しては、引き続きギンの仲間達であるウルフが引き受けてくれるそうだ。つまり、防御面は割と平気そうだが……残るは討伐隊か」


「ええ、仰る通りかと。冒険者や兵士達の方々には、それを担って頂きたいですな」


「そして、それには指揮官……まとめ役が必要になるか。すまんが、少し出てくる」


「はい? ……わかりました、いってらっしゃいませ」


 話し合いを中断し、俺は屋敷の外に行く。

 庭ではギンがいて、俺があげた小さなプールで遊んでいた。

 バシャバシャとはしゃぎ、まるで子犬ようだ。


「ワフッ!(たのしいのだ!)」


「……そいつは良かったよ」


「ガウッ!?(主人!?)」


「くく……出かけるから見張りをよろしくな」


 しまったという表情を浮かべるギンに癒されつつ、俺は目的の人物の元に向かうのだった。











皆さま、おはようございます。


一昨日より、新作を投稿しております。


「反逆の英雄譚」という一人の男が、愛する者のために戦う物語となっております。


こちらをお読みの方は合うと思うので、よろしければご覧ください。


https://kakuyomu.jp/works/16818093076191614531/episodes/16818093076191616016

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