第59話 見送り
それから数日後、ゲイル殿が帰る日になった。
最後に話があるというので、出口の門から二人だけで離れる。
ちなみに、話すのは決闘以来である。
「……」
「……」
大の男が面と向かい合って黙り込む。
これは、俺から言ったほうがいいか?
だが正直言って、これといって話すことがない。
多分、俺と彼は相性が悪い。
「あぁー……その、なんだ……」
「気を使わなくて結構……俺の行いを不問にしてくれたことを感謝する」
そう言い、渋々と言った感じで頭を下げる。
いきなり素直になられても気味が悪いので、これくらいの方が楽だな。
「いや、気にしないで良い。それより、君はこれからどうするんだ?」
「そうか……もう、セレナ様には俺は必要ない。そうなると、次の仕事を考えねばならないか」
「まあ、君なら引く手数多だろう」
何せ侯爵家出身だ。
剣の腕前も悪くなかったし、騎士団なり指南役なりできるだろう。
……人のことは言えないが、頭を使う仕事はやめた方がいいかもしれないが。
「ふんっ、見え透いた世辞を言わないでくれ。まあ……帰ってからのんびり考えることにしよう」
「ああ、それでいいと思う。君はまだまだ若いのだから」
「……あんたも良い歳してるんだから、結婚とかはしないのか?」
「結婚? ふむ……考えたことないな」
10代後半から戦争に参加し、今では領主という慣れない仕事だ。
そんな呑気なことを考えてる場合でもない。
「……セレナ様も苦労しそうだ」
「ん? どういう意味だ?」
「なんでもない。ともかく……これは貸しが一つだ。何かあったら、一度だけ手を貸してやる」
「そうか。では、その時が来たら頼むとしよう」
そして、セレナ様やサーラさんに挨拶をし……馬に乗って賭けていく。
俺はそれを見送った後、二人と共に屋敷へと戻る。
「アイク様、ゲイルのことありがとうございました」
「ええ、本当に。愚弟がお世話になりました」
「いや、気にしないで良い。それに、置き土産も貰ったしな」
彼は借りとは別に迷惑料として、幾らかのお金を置いていった。
彼からしたら大したお金ではないが、こちらからしたら大金だ。
大体、平民家族が三年くらい過ごせる額だった。
「まあ、弟は給金だけは良かったですから」
「何せ、王女の護衛だ。しかし、俺が使って良いのか? 元々は、セレナに使ってくれということだったが」
「はい、それで大丈夫です。私が持っていても、使い道はないですし……もう、これ以上ないくらい満足してますから」
そう言い、可憐に微笑む。
俺はその姿に一安心する。
同時に、見惚れそうになる自分に戸惑いを覚えた。
「……そ、そうか」
「アイク様? どうかしたのですか?」
「いや、何でもないんだ。それより、このお金の使い道なのだが……」
「何か当てがあるのですね?」
「ああ、この間セレナが言ってただろ? 冒険者の誘致について」
「はい、色々な人の意見が出ましたね」
あの後、ナイル達からも意見をもらった。
戦える才能があったとしても、冒険者になりたくてなった者ばかりじゃないこと。
引退を考えているが、様々な事情からできない者など。
「しかし、冒険者ギルドを誘致するのは時間がかかる。それを踏まえて、ひとまずは俺が雇うことにするのはどうかと思ってな」
「領主としてってことですか?」
「ああ、給金を出す代わりに働いてもらう形だ。それこそ、戦争終結で行き場をなくした兵士もいる。あとは負傷して辞めざるを得なかった者もな」
それこそ、ガルフがそうだ。
負傷が原因で、戦いから一線を引いた。
しかし、短期間なら戦えるし指導や他の仕事もできる。
すると、サーラさんが手をあげる。
「とても良い考えかと。行き場をなくした兵士は盗賊や山賊にもなりえますから。負傷した方々も、警備や指導という形なら問題もありません」
「はい、私もそう思いますっ! 実は……負傷した方々のその後の話は、私も胸を痛めてました……もちろん、我が国は手厚い補償をしました。ですが、それと働けないことは別ですから」
「ああ、お金があっても生き甲斐がなければ人は腐ってしまう。よし、この意見をもって皆と相談しよう」
人が集まれば自然と活気が出て、商人などもやってくる。
そうすればいずれ、冒険者ギルド誘致も夢ではない。
きっと近道などない……俺は俺らしく、確実に出来ることをやっていくしかあるまい。
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