06 されど是非もなく

 娘を冷凍に近い状態にして研究を続けていたが、私こそが身の凍り付くことになるとは。

 ある信頼のおける筋からの情報で、私たち家族の運命を狂わせた飛行機墜落事故がML教団の差し金であることが分かったのだ。


 証拠はないが、合点はいく。

 開発中であるめかまじょ技術を、より進歩させるためだ。

 最終的には月の膨大な魔力を御せるものにしたいのだろうが、めかまじょそのものが存在しないのでは話にならないからだ。

 だが、どうする?

 ML教団はそんな機体など作って、神とでも称すつもりか。

 そんなことのために、私の家族を奪ったというのか。


 よく私の頭は狂わなかったと思う。

 脳細胞が怒りに沸騰しなかったと思う。

 知った瞬間に頭を打ち付け自害しなかった自分の罪悪感のなさ、冷徹さには脱帽だ。

 教団の要求を私が最初から聞き入れていれば、こんなことにはならなかったのだから。

 織江も、美夜子も、犠牲にならずに済んだのだから。


 いずれ、めかまじょの技術は完成する。

 だが教団は、待てなかったのだ。

 もたもたしていたら、月の魔力が開放されてしまうからだ。

 だから私がめかまじょ手術を強行するよう、彼らは私の娘を事故に遭わせた。


 なにが、月の光が人々を平和に導くだ。

 この仕打ちが貴様たちの言う平和か。

 それとも平和を手に入れるための対価とでもいうつもりか。

 他人の人生を奪っただけではないか。

 ただの人殺しではないか。


 怒り狂って教団を訴えたところで、ただ私が社会から、いやこの世から抹消されるだけだろう。

 ならば復讐心を胸に置きながらも、めかまじょの研究を続けるしかなかった。


 いつまで存在していられるだろうか、私のこの命は。

 めかまじょが完成し、さらに月の魔力を制御出来るほどの高性能魔道ジェネレーターが完成したならば、教団は口封じのため私を殺すのではないかと思うのだ。

 そして、もしも本当にそこまでする集団なのであれば、おそらくは美夜子も同じ運命を辿ることになる。何故ならば、先天的に融合係数が低い彼女を、つまりめかまじょになれない彼女を、教団としては生かしておく意味がないからだ。


 飛行機墜落事故がML教団により引き起こされたもの、それは信頼の置けるスジからの情報であるとは記したが、おそらくそれは、教団があえて発信した情報だ。

 お前はいつでも殺せる。

 逃げ場はない。

 研究を続けろ。

 私を脅しているのだ。

 ここ最近、教団の連中が姿を見せないと思っていたが、なるほど見せる必要などなかったのだ。


 妻と娘をこのような目に遭わせられた私が復讐の鬼になり、なりふり構わぬ行動で教団に敵対する可能性もあるだろう。

 だが、向こうからすればたかの知れたことであろうし、姿を見せないことにより怒りを向ける直接的な対象がなければ、私にとって美夜子の生命を救うことがなによりの優先事項であるばかりか唯一出来ることになるからだ。つまりは、めかまじょの開発をするということが。


 しかし、そうしてめかまじょの技術を完成させることにより、おそらく最終的には私も美夜子も殺されることになるのだ。

 そうであるならば、私はどうすればいいのか。


 五百年もの魔力をたっぷり蓄えた月ならば、答えを知っているのだろうか。

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