07 暗がりの中で

「分かりましたね。あなたが自分で、悪魔から奪い返すのです。家族を。幸せを。過去と、未来を」


 薄暗がりの中、老人のしわがれつつもニチャッとした声が微かに響く。


 彼の前方にある壁面ディスプレイには、ノイズ混じりのモノクロ映像。

 ロボット? パワードスーツ? 白い金属の、人間の女性的なフォルムをしている姿が真ん中に映っており、老人の言葉に反応してか仮面に隠れた顔で小さく頷いた。


「期待、してますよ」


 老人がニッと笑むと、目の前のディスプレイ映像が切り替わる。

 先ほどまでは監視カメラの映像といったものであったが、今度はコンピュータのデータであろうか、超細密のくっきりしたグラフや文字が画面いっぱいに映る。

 膨大な情報量がどんどん流れ、切り替わっていく。


「先ほどの、レベルフォーというのをいずれは実装させたいものですが。まずは、次のファームでは基本出力を上げてみましょうか」


 独り言?

 いや……


「根本を見直さないといけません。先にやるべきことは、機体の耐久性を上げること。でないと設計上の高出力に暴発する可能性が高いのです」


 座る老人の背後に、色白の、表情のない若い男が立っていた。


「金なら出すといってるでしょう」

「それは現在のところ不足はしておりません。ただ、設計書はあってもその通りに精錬するための技術力向上に時間が必要なのです」

「だから、簡単に出来ることとして次のファームは出力を上げろといってるんですよ」


 老人は鼻で笑う。


「いや、しかし安全性が」

「必要ないといってます。いくらでも、代わりはいるのですから。とりあえずは、現在のままの精錬度で問題ない。……まあ、どう判断すべきかのヒントが、もうじき得られるかも知れません。そこで考えましょうか」


 壁面ディスプレイの映像が、またモノクロ監視カメラに戻る。

 先ほどまでいた、白い金属の全身をした姿は、もうどこにも映っていない。


「そうそう、アリアンロッドの開発状況は、どうなっていますか?」


 老人は、背後にいる色白の男へと尋ねる。


「機体自体の開発は予定通り。ただ、魔道ジェネレーターが一般工業用のものでしか試験が出来ませんので、取れていない数値が多く、まだお見せ出来るものではありません。各パーツの形状程度なら、すぐお見せしますよ」

「いえ。楽しみに続きを待ちますよ。もう、いいですよ」


 老人にいわれ、男は黙ったまま踵を返し、そして部屋からいなくなった。


「アリアンロッド……あれさえ完成すれば。後は、高密度な魔力を制御する技術だけ……」


 老人は、その後しばらく口を閉ざしていた。

 静まり返った部屋で、やがでまたぼそり口を開いて粘液質な声を発した。


しま……」

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