05 え、なんでここにいるの?

「……なるほど、そういうことやったんか。好き勝手に強引な主張を並べて、なおかつ金銭まで要求するとは、とんでもないやつらやな。常識のないアホやで」


 すぐ近くで実況しているテレビ局女性レポーターの言葉から、ようやく状況を飲み込んだみやもとなえは、憤りに指をぱきぽき鳴ら、そうとしたが作りが精巧かつ頑丈過ぎてすんともいわず諦めた。


「おんなじこと警部さんがずーっと説明してたのに!」


 突っ込み入れるのは栗色髪の少女、とりだ。


「やかましい。耳に入る声と入らない声があるんや!」

「お茶の間に届く優しい簡単な言葉でいわれたから理解出来ただけのくせに。……それよりもさあ、どうして宮本さんがここにいるのお?」


 美夜子は訝しげな視線を早苗へとぶつけた。


 ここは事件現場である建物の真ん前で、無数の警察機動隊員のいる物々しい中である。

 そんな中に小取美夜子がいるのは、まあ普段通りというか、今日もまた過激派鎮圧のための出動要請を受けたためだ。


 ところが来て見てびっくりインド人。現場の作戦本部に、宮本早苗が当たり前の顔をしているのだから。

 あまりに普通にし過ぎてて、今の今までまったく疑問にも思わなかったくらいだ。


「我々が頼んだんだよ。正確にはディアナ・レジーナ財団が。戦える仲間がいた方が、心強いからね」


 と説明するのは、美夜子と一緒にここへ来たボサボサ爆発頭に牛乳瓶底眼鏡ののりまきさぶろう青年である。


「そうなんだ。……ま、別にいいのか。戦力は多い方が。よろしくね、宮本さん」


 美夜子はニコリ微笑みながら、握手を求めて右手を差し出した。

 が、パシリ払われてしまう。


「うちは仲間になった覚えはないで。単なるビジネスや」

「またまたあ。おんなじめかまじょ同士なんだから、仲よくしようよお」


 構わず強引に両手で早苗の右手を包み込んで、ぎゅっと握ってぶんぶん振った。


「うわああ、触るなあボケカス!」


 振りほどこうとする早苗であるが、美夜子はいいじゃんいいじゃんいってなかなか離さない。


「宮本さんの、青いめかまじょとしてのデータが欲しいってところもあるんだろうね、財団はさ。最初はうちの部長たちが、『どのようにして、我が研究所で開発したのとまったく同じタイプの機体を作ったのか、調査させて欲しい』とこうみようじん博士に掛け合ってたんだけど、『これはわしのオリジナルや!』とかバンジョー弾きながら暴れて、まったく仕様書を見せてくれなかったらしいからね」


 はははと笑う典牧青年の言葉に、早苗は一瞬にして憤怒の表情になって、力一杯強引に美夜子の手を振りほどいた。

 そしてその憤怒に真っ赤になった顔を、典牧青年の顔へぐぐぐぐぐっと寄せて睨み付けた。


「自分ら、ボケたツラして裏でそんなことしとったんかあ! つうかこの機体からだはおっちゃんのオリジナルや! 黄明神印や! パクリみたくいうな! この小取美夜子みたいな、しょぼいのと一緒にすんなや!」

「あ、あたしのどこがしょぼいんだよお!」

「歌ド下手やないか!」

「なんだよ、カップ麺にお餅入れて食べるくせに!」

「なにが悪いんや! 至極の味や! それが分からんお前こそ単なる機械や! ロボットや! ロボット五等兵や!」

「五等兵なんてありませえん」

「ありますー。うちの前でボケヅラさらしてまあす」

「ボケっていう方がボケなんだよ!」


 過激派の立て籠もる建物の前で、なんという低レベルの争いであろうか。


「本題に入ってもいいのか?」


 そえごうすけ警部補が、おほんと咳払い。


「あ、す、すみません。……要するに、ビルの中にいる人質を守りつつ、犯人を捕まえればいいんですよねえ」


 美夜子はえへへと笑いながら、昭和の芸人みたく頭を掻いてごまかした。


「ま、要してしまえばそういうことなんだが。しかし人質にもしものことがあってはいけないから詳細に状況説明をしたいのに、きみたちときたら歌が下手とかお餅がどうとか」


 掻いただけではごまかし切れなかったようである。


「もしもも餅ももないわ。心配あらへんって。うちを誰やと思うとるん? 天下無敵の、ほんまもんのめかまじょやでえ。乗り込んで一気に突き進んで、相手の慌てとる間に全員ぶっ飛ばせば解決やろ。フロアの詳細、侵入経路の情報だけ教えてくれればええわ」

「駄目だよ宮本さん! 相手がどんな戦力なのかも分からないんだから、様子を探るためにもまずは見つからないように動かないと」


 この世紀末、単なる一般人が物騒な科学兵器を所持していてもなんらおかしいものではない。

 ましてや相手は単なる一般人ではない。

 つまり、もしも侵入した自分たちがめかまじょであると知られてしまったら、その途端に犯人がなにをしてくるかも分からないのだ。なにを持っているかも分からない、犯人が。


「ずいぶん弱気やな自分。めかまじょのくせに」


 早苗は腕を組み、美夜子の顔を見てふふんと鼻で笑った。


「あのね、めかまじょって人型だからこその汎用力に優れているだけだよ。単なる兵器として考えた場合、めかまじょは特殊ではあるけど特別に優れた力があるってわけでもないんだよ。あたしも何度か死に掛けてる」

「お前が弱いだけやろ。歌も下手やし」

「歌は関係ないでしょおおおおお!」

「それで、そろそろ話を進めてもいいのか?」


 やれやれといった顔の添田警部補である。

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