06 早苗、中学時代を回想す

「ことごとくが、うちの勝ちやな。つかあいつが勝っとるの腕力だけやないか。なんやろなあ、それすらもうちのが文明人ってことで勝ちに思えるわ」


 ぼそぼそささやくような小声で独り言を発しながら、みやもとなえは一人歩いている。

 側面に赤いラインの引かれただけの、殺風景な通路を。


 彼女の顔に浮かんでいるのは、勝ち誇ったような涼やかな笑みだ。タレ目なのがちょっとなんではあるが。

 制御室を乗っ取られたこの公害研究センターの館内に、あっさりと侵入経路を切り開いてみせたことに対して、ちょっと得意になっているのだ。


「ほな、あれはうちの聞き間違いやったのかなあ」


 まだ独り言を続けている。

 なんの話かというと二年前のこと、早苗が中学二年生だった頃のことだ。


 まだ早苗は機械化されておらず、生身の身体だった。

 どこにでもいる普通の女子中学生だ。普通といっても、関西弁だけど。あ、あと普通といってもタレ目だけど。


 早苗のいた大阪市の区立中学に栗色髪の少女、とりが転校してきたのである。

 ひょんなことから早苗は彼女と張り合うようになったのだが、しかし、体育、家庭科、国語、英語、将棋崩しに花札、その他もろもろすべてにおいて負けたのみならず、あろうことか「あなたじゃわたしに勝てないよ」などと涼しい顔で笑われたのだ。

 自慢してやろうとか、嫌味をいってやろうとか、そんな感情でもその顔に窺えればまだしも、ただ事実を述べただけといった感じの遠い視線の薄笑いをされたのだ。


 以前にも説明したが、早苗が美夜子を敵対視する理由である。

 だが、めかまじょ化により腕力が凄いだけでいつもボケヅラばかりさらしている小取美夜子を見ていると、疑問が生じてくるのだ。こいつはホンマにあの小取美夜子なのか、と。

 成績優秀か知らないがあの嫌味な女と、パンツの同じ穴に両足を突っ込んで転んでいたあのバカな女と、同一人物なのか。

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