09 なんにも知らないけれど、なんにも知らないからこそ

 飛行機事故により死を待つしかなかった。

 医者も匙を投げた。


 だから仕方なくだと聞かされている。

 お父さんが、娘であるわたしにめかまじょ手術を施したのは。

 生命を助けるために、そうするしかなかったから。


 でも、娘を愛しているのなら、そんな簡単に手術を決断出来るものだろうか。

 聞かされただけだから、どれほどの思いであるか正しく理解しているわけではないけれど、でも、そう思う。


 わたしがまだ物心の付く前に別れて、ずっと別々に生きてきたから?

 だから平気だった? 呵責がなかった?


 それとも、それどころか、実の娘であるからこそ、これ幸いと……


 父であるしま博士がどんな思いでめかまじょ手術をすることになったかも知らないくせに、美夜子は勝手にあれこれと想像して、ちょっと悲しい気分になっていた。


 そもそも会いに来ないからだ。

 だからわだかまりも解けないんだ。

 と、父への不満を胸の中にもごもご決まり悪く唱えていた。


 すぐさま、そんな思いを振り払う。


 そんな話は後だ。

 この赤い機体からだの機動性能は、ある程度は理解出来た。

 なら次は……


「なんやその余裕かましたツラはあ! 追い詰められとるんは自分の方やで!」


 戦いながら美夜子が別のことを考えていたのに、気付いたのだろうか。

 宮本早苗は、烈火のごとく怒鳴りながら、これまでにない激しさで拳を突き出した。

 だが……


 ぱしり。

 その拳は、美夜子の左手のひらで簡単に受け止められていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る