03 うちが宮本早苗や
「そしたらさあ、ぜーんぶあれ兄貴の仕業でさあ。『お、お前が勘違いしただけだろっ』とか開き直ってんだからなあ」
「ああ、そうだったんだあ。でもまあ、家族の誰かが食べたと普通は思うよ」
栗色髪の女子生徒
「茉莉ちゃんってば、いつもあたしに冷静な突っ込みをビシバシ入れるくせに、自分が一番のボケまくりじゃないかあ。もう老化現象ですかあ」
「酷いなあ……」
茉莉は眼鏡の奥にある目を細めて、ぷっとほっぺを膨らませた。
「ごめんごめん。……まあとにかく犯人が分かったんだから、じゃあ仕返しに、お兄さんのそういうのを全部食べちゃえ」
「食べた。片っ端から。苦労して買った期間限定品もあったらしく、涙目になってた」
二人であははは大笑いだ。
午前八時三十九分、美夜子がこの通りショートホームルームまでの時間に自席で雑談していると、教室正面に設置されたスピーカーからチャイム音が聞こえた。
始業である。
大声でバカ話をしていた
「ちょっと購買で、つぶつぶオレンジ買ってくるっ!」
全力ダッシュで前の戸をガラリ。
「チャイム鳴ったろがバカヤロウ」
開きかけた引き戸の隙間から拳が突き出て、高良義則の鼻っ柱をガスッ。
「ふがほっ」
貧弱な高良の身体は、後ろへばたんゴロリン。
後頭部打った。
引き戸が完全に開いて、担任の
「寝てんじゃねえ」
歩きながら先生は、倒れている高良の頭をつま先で小突いた。
「んまっ!」
小突かれて高良義則が気持ちの悪い悲鳴を上げていると、先生に続いてさらに一人が入ってきた。
上下紺色の制服を着た、おでこ全開タレ目の女子である。この高校の女子服はえんじ色の上着にタータンチェックのプリーツスカートであるため、つまりは他校の制服だ。
「邪魔や」
女子も、上履きの踵で高良の頭をコン。
「にょぎ!」
見知らぬ少女にまで蹴飛ばされ、高良義則は床の上で身体を海老反らせながらまた不気味な悲鳴を上げた。
「転校生、かな?」
後藤茉莉が腰と首を少しずつ捻って、後ろの席にいる小取美夜子に吐息のようにこそこそっと問いかけた。
「さあ」
同じくこそっと美夜子は返す。
さあといってはみたものの、可能性は高いだろう。他校合同実習など、そんな話はなにも聞かされていないのに他校の制服がいるのだから。
寝屋川先生が気怠そうに口を開くと、果たして美夜子たちの想像通りであった。
「では、転校生を紹介するぞ。……まず名前な、そう、そのチョーク」
先生に促され、紺色制服の女子生徒は白いチョークを手に取り黒板の左端へ立つと、躊躇いなく書き始めた。
カツカツ音を立て威勢よく、右へ右へと移動しながら。
宮 本 早 苗
漢字を四文字、黒板の左端から右端まで大きくびっしり書き終えて振り返ると、教卓に両手をつき、じろり教室内の生徒全員を見回した。
「今日から世話んなる、
わざわざ、という言葉にダジャレではないがざわざわっとなるのは当然の流れ。
そんなざわざわの中、宮本早苗と名乗った女子生徒はニヤリと思わせぶりな笑みを浮かべた。
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