10 なでてもらいたいのに。褒めてもらいたいのに!
暴れもがく小太り眼鏡男のその姿に、事の終わりを漠然と実感して、
身体をぶるぶるっと震わせたかと思うと、そのまま両膝を着いて座り込んでしまった。
「怖かった……」
高熱ナイフを手にした男と戦ったという恐怖と、もう大丈夫なのだという安堵に感情を掻き回されながら、がくり項垂れもう一回長いため息を吐いた。
と、すぐ前に誰かが立っていた。
美夜子は、疲れ切った顔をゆっくりと上げた。
「ありがとう。守ってくれて」
リコちゃん、と呼ばれていた女の子が深く頭を下げた。
「あ、ええと……」
美夜子は、自分の腰が抜けてやしないか確かめながら、ゆっくりと立ち上がった。
「お姉ちゃん、魔法少女なんだね」
そういうと、リコちゃんは歯を見せて笑った。
美夜子は、視線を落として自分の手足をあらためて確かめると、また顔を上げてリコちゃんに対して笑みを作った。
いや、作ろうとしたが作れなかった。
ぼろり、と涙がこぼれたかと思うと、そのまま声をあげて泣き出してしまったのである。
高校生が、幼女の前で。
わんわんと、みっともなく。
怖かったから? も、少しはあると思うけど、でも、違う。
きっと、このリコちゃんという女の子の言葉に、自分という存在を確認出来たから。
魔法少女がどうということでなく、わたしの、心を。
なんだか、そんな気がする。
これまでは、あんなにふわふわした気持ちだったのに。
そのふわふわは事故でお母さんをなくす前から。お母さんと一緒に暮らしていた時から。
自分って一体なんなんだ。誰にとってのなんなんだ。いつもそんなことばかり考えて、気ままにすねてはお母さんを困らせていた。
でも、やっと分かった。
大丈夫。
わたし、もう大丈夫だよ。大丈夫だから。
そんな自己への確認が出来たというのに、でも、それを認めて欲しいお母さんは、もういない。
今こそ、たっぷり褒めてもらいたいのに。
頭をなでてもらいたいのに。
いつの間にか、美夜子の姿が元に戻っている。
だから心が別人になるわけでもなく、そのまま美夜子は大粒の涙をこぼしながらわんわん声をあげて泣き続けた。
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