MAGIC・4 めかまじょ誕生 その2

前章のあらすじ

両親が別れたのは、がまだ幼い頃のことだった。

そのため、母親に引き取られた美夜子には父親との記憶がほとんどない。

なくもないがあまりにおぼろげで、本当の記憶なのか、後から自分で作り上げた記憶なのかも分からない。


母娘二人だけで、転々としながら過ごす日々。

楽しくはあったけれど、振り返ってみると脳裏に浮かぶのは、母親の寂しそうな顔ばかりだった。


転居、転校を繰り返し、時は流れて美夜子も成長し、高校生になった。


父親と、また一緒に住むことが決まった。

つまりは両親と美夜子の三人暮らしである。


でも、父親の愛を感じた記憶がない美夜子の思いは複雑だ。

幸せではあったものの、客観的には自分は不幸だと思うし、母親の寂しい顔ばかり見てきたし。それはどう考えても、父親のせい、家族がバラバラだったせいだからだ。


しかし、自分が変われば、これまでの寂しい人生が肯定できるものになるのではないか。

母親の顔が寂しそうに思えたという、それすらも後に笑えるよい思い出になるのではないか。

そのためにも、自分は変わるんだ。

お父さんと会うんだ。

一緒に暮らして、お父さんのよいところを、たくさん見つけるんだ。

そう強く思う、強く願う美夜子を乗せて、東京行きの飛行機は札幌を発つ。




待っていたのは、史上最悪レベルの航空事故だった。

旅客機は墜落、大破、乗客は全員死亡。

ただ一人、美夜子を除いては。




美夜子は目覚める。

そこは病院ではなかった。

しきしま機械工学研究所。

美夜子の父親であるしまむねゆきが運営する民間企業の、作業用の一室であった。


目覚めた部屋にいた、研究所を支援するディアナ・レジーナ財団の特派員イリーナというロシア人女性から、美夜子は様々なことを教えて貰う。

美夜子の乗っていた飛行機が墜落したこと。

乗客はほとんどが死に、生き残ったのはただ一人、美夜子だけであること。

つまりは、一緒に乗っていた美夜子の母も助からなかったこと。

美夜子も死を待つばかりであったのだが、肉体のほとんどを機械部品に交換することにより、なんとか一命を取り留めたことを。


母が死んだということに、美夜子は狂いそうになる。

時間が経ち落ち着いた美夜子に、イリーナは生命を助けた見返りを要求する。「普通の人間として、生活すること」を。


自分が機械の身体であるという実感もないまま、とりあえず生きていくことを選ぶ美夜子。

機械だということが事実だとして、一つ解せないことがある。

何故、父が自分に会いに来ないのか。

自分を機械化手術したのが、ここの研究所の所長である父だというならば、どうして会いに来ないのか。


父を好きになって自分が変わるんだ。過去を変えるんだ。そうして札幌を飛び立った美夜子であるというのに、父への気持ちはよりこじれるばかりだった。

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