01 おひっこし
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MAGIC・4 めかまじょ誕生 その2
ぐぎごぎっ!
「ガファッ!」
骨のどこだか、なんだか凄い音。
そして
大きなダンボール箱を二人がかりで運ぼうと、担当する片側を持ち上げたところ、あまりの非力貧弱に一瞬で腰が砕けてぐぎごぎガファッっとなったわけである。
さらには、人の荷物だ落とすまいと中途半端に頑張ったものだから抱えたまま後ろに転がってしまい、倒れた胸の上にドッスン荷物が落ちた。
「うぎゃああああ!」
そして轟く断末魔の悲鳴。
「なんだ、だらしないな。若い男の人が」
段ボール箱の反対側に手をかけていた
怪力アピールしたくないから典牧青年に手伝わせていただけで、持とうと思えば一人でも楽々な重さである。
「そ、そんなこといわれてもっ。ミヤちゃんがちゃんと持ってないから、こっちに重さが偏ってこうなったんじゃないか!」
「いや、あたししっかり持ってたよ。限界ならさっと置いちゃえばいいのに、わざわざ後ろに倒れたりするから荷物が引っ張られてこっちの手を離れちゃったんでしょ」
そもそも重さが偏るだのと因縁付けるというならば、背の低いこっちにこそ重さが来るんだから不公平だろう。と美夜子は思う。結局は、その条件を上回るというか下回るそっちの非力さが原因じゃないか、と。
「わざわざだなんて酷いっ! 休日を使って手伝ってあげてるのに!」
「それはもちろん感謝してるけど……」
でも、それはそれだ。
しかし、自分がそこまで非力なことを知らなかっただなんて、技術者というのは普段どれだけ身体を動かさない職業なんだ。
そんなことを思っていると、さっきの凄い悲鳴と表情を思いだしてアハハと笑ってしまう。
この通り、美夜子は元来の明るさを取り戻しつつあった。
死んだ母親のためにも頑張らないと、という少し無理をしている部分もあるが、他人にギスギスしたところは見せないし、反対によく笑顔を見せるようになっていた。
典牧青年を始め研究所の人たちが暖かく、そうした点も無関係ではないのだろう。
「こちらに引っ越されて来た方ですか?」
突然、背後から男性の声が掛かり、美夜子は驚いてびくりと肩を震わせた。
振り向くと、頭髪の真っ白な男性と女性が立っている。おそらくは、ここの住人であろう。
「あ、はい、そうです。小取といいます」
昭和っぽい建物と妙にマッチしたご夫婦だなあ、などと思いながら美夜子は軽く頭を下げた。
すると今度は隣の女性が微笑みながら、こんなことをいう。
「お若いご夫婦ですねえ」
と。
その言葉に凄まじい速度の反応を見せたのは典牧青年である。
「いやあ、夫婦じゃないけどお、若いっていわれて嬉しいなあ」
まだ瀕死状態で地面に転がっていた青年が、爆風受けたようなぼさぼさ髪を掻きながらニコニコ笑顔で立ち上がったのだ。
二十代後半でまだ若い典牧青年であるが、よく腰を曲げて歩いているし年寄りっぽく見られている自覚はあって気にはしており、だから若いといわれて嬉しかった。そんなところであろう。
「えーっ、反対にあたしは老け顔ってことですかあ? 女子高生なのにい」
まだ高一だぞお、大学生より中学生寄りの女子高生だぞお、と老婦人になんとも情けない表情を向ける美夜子。
情けなくもなる。
若いという修飾が付いたとはいえ、夫婦と思われたからにはそれ相応の年齢と思われたということじゃないか。
腰が曲がってジジ臭いのを気にしてるようなノリマキくんとそういう関係だと思われたということは、わたしも同年代に思われたということじゃないか。
「いえいえ、あなたが中学生か高校生にしか見えなかったから、だから若いなあって思ったのよ」
「ああ、なんだ、それならいいんです。……よかったあ」
と、胸なでおろす美夜子の前に典牧三郎青年が立ち、似合わないけどクールな笑みを老婆へ向けた。
「おばあさん、別に庇わなくてもいいんですよ。老け面は老け面って、ズバンと現実を見させてやった方がいいんだから」
先ほど非力をからかわれ笑われた反撃のつもりであろう。
「バカノリマキいい! ほっぺたを引っ張ってやるう!」
美夜子は背伸びして、典牧青年の背後から腕を伸ばして、両のほっぺたをつまんだ。
「わあああ、やめてちぎれるからやめてそれほんとやめてっ! きみの握力どんだけあると思ってんだあ! ミヤちゃん若いっ! 中学生、いや小学生っ、幼稚園!」
「はあ? 幼稚園だあ?」
この二人は、ここで一体なにをしているのだろうか。
バカなやりとりをしているというのが正解だが、ではそもそも何故ここにいるのかというと、それは美夜子の引っ越し作業のためである。
別に典牧青年と暮らすわけではない。
付き合ってもないし、恋愛感情も微塵もない。知り合って間もないとか関係なくきっと今後も。
彼女は今日からこのアパートで一人暮らしを始めるのだ。
父親に金銭面だけ援助をしてもらって。
そのため、この一帯に土地勘のある典牧青年にも物件探しを手伝わせて、決めた住まいがこの今や化石の木造アパートというわけである。
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