10 あなたとはまだ繋がっていない
先日、母の葬儀が執り行われた。
おそらく喪主を務めたのは、
姓こそ違うが、別に両親は離婚したわけではないからだ。
気が重いながらも、
母親の葬儀であり、行くのは当然だ。だが、父に会うことに対して気が重かったのである。
でも結局、体調を崩してしまい出ることが出来なかったのだが。
二人きりで生きてきた、自分の母親なのに……
わたし以外に誰が安心して天国へ送り出せる? そう思っていたのに、その自分が参加出来なかった。
右腕に内蔵された動力源が調整不足で、まともに意識すら保てなくなってしまい、夢うつつのまま横になっているしかなかったのである。
ずっと二人きりだった、その母親の葬儀なのに。
年齢が年齢ならば父なんか差し置いて自分が喪主を務めようとしたであろう、大好きだった母親の葬儀なのに。
運の悪さに、泣くに泣けなかった。
でも、どうしようもなかったのだ。死ぬほど気持ちが悪くて。意識も半ばなかったのだから。
「ジェネレーターの駆動係数は上りも下りも正常値なんだけどなあ」、などと
でも、美夜子としてはそれでよかったのかも知れない。
典牧青年に機械扱いされたことではなく(それはただの屈辱だ)、葬儀に出なかったことに対してだ。
だって、母と自分は繋がっている。葬儀に出ずとも、それで関係の壊れるものではない。
でも、父とはまだ繋がっていない。
だから。
そんな理屈を並べて嫌なことから逃げ続けることなど、いつまでも出来ないのは分かっている。でも、そもそも順番を守らないのはあちらなのだ。戸籍の上では父である、間違いなく成人で立派な大人であるはずの、あの男性の方なのだ。
美夜子のこだわりと不満は、つまるところその一点であった。
だからこそ、イリーナから依頼された「生身の人間と同様に暮らす」ための場所を決めるにあたり、父にはお金だけを出してもらって、一人で暮らすことにしたのだ。
典牧青年に父へのメッセンジャー役をやってもらい、また物件探しを手伝ってもらって。
頑張れば働いて全額を叩き返せるように、安アパートにしたのだ。
父と暮らそうという選択肢は、美夜子には現在のところまったくなかった。
一緒に暮らすべく飛行機に乗って、でも向こうから会いに来なかった父と、どんな顔で会えばいいのかなど分からず、必然的に一人暮らしという選択肢しかなかったのである。
意地も続くと張り続けることだけが目的になってしまうものだなあ、としみじみ思った美夜子である。
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