08 別に恨みはないけれど
どうして
それたついでにもう少し。
近くで父親が働いていること前話で説明したが、一緒に暮らすという選択肢があるのに関わらず何故それを拒否してまで一人暮らしをしているのか。
まだ高校生である美夜子が。
もちろん理由はある。
一人暮らしのというよりは、正しくは父と会いたくない理由だ。
美夜子は、ずっと離れて母と二人で暮らしてきた。
これから父と暮らそうというところで、母が事故で死んだ。
母が間に入るからなんとか一緒に暮らせるわけで、そうでなければ会ったことがないに等しい父親などは他人ではないか。
だからということか自分でも分からないのだが、この大宮に来てから一度も父には会っていない。
父の方も自分に会いたいといってこなこともあって。
多分、父のそれは責任を感じてのこと。
何故ならば、三人で暮らすために乗った飛行機墜落事故によって、母は生命を落としたのだから。
美夜子から会いたがっているならばともかく、切り出しにくいものがあるのだろう。
お互い様とはいえ、会えばすぐ会えるところにいるのに子供っぽいなという自覚は美夜子にある。だが、心のことなのでどうしようもない。
そもそも会おうとしない娘よりも、ならばと合わせて会おうとしない父親の方が異常だろう。
人生これまでずーっと放っておかれていたわけで、つまり自分に愛情なんか抱いているはずがないんだ。
そう本気で思う自分もいる。
物心ついた頃よりずっと母娘の二人暮らしだった美夜子だが、その母も亡くなり身寄りがないから仕方なく父親のところへというのも癪ではないか。是非とも一緒に暮らして欲しいと、向こうが頼んでくるのなら考えなくもなかったが。
「……という考え方も、ちょっとおかしいのか」
考え方、というかそこに至る順序過程が違うか。
だってもともと自分たち母娘は、この大宮へと父に呼ばれて、これから三人で一緒に暮らすんだよと母にいわれ、心の準備も出来てないうち札幌からの飛行機に乗って……
それが、すべての始まりだったのだから。
つまり、「一緒に暮らそう」の言葉はとっくにいわれていたのだ。
父から直接聞いたわけではないにせよ。
でも、「三人で一緒に」は永遠に不可能になってしまって……
わたしも、普通の高校生ではなくなってしまって……
父に恨みはないし、恨むのは理不尽。そう分かってはいるけれど、発端そのものは父の言動にあるわけで……
「って、頭がごちゃごちゃしてきたあ!」
美夜子は頭を抱えてしまう。
超精密機械の身体であるが、頭脳は生身なのだから。
でも、理屈は関係なく、感情の記憶だけを思い出してみても……
「やっぱり、愛情を感じたことなんか……ないよなあ」
会った記憶がおぼろげにしかないんだから、とか関係なく。
母娘への仕送りは律儀にしてくれていて、おかげでそこそこ裕福な生活が送れていたことは理解しているし感謝もしているけど、それはそれこれはこれだ。
そもそもそれ、最低限の親の義務じゃないか。
「……って、またお父さんとのことを考えちゃったよ。もう」
美夜子は長いため息を吐くと、ご飯食べるのを後回しにして、窓の前に腰を下ろして窓枠に腕をかけ風景を眺める。
ここはさいたま新都心大宮地区の、低層区域。
遠くを高層建築にぐるり囲まれている。
しばらく、ちょっとうつろな視線のまま固まっていた美夜子であるが、やがて我に返ると部屋の中へと視線を戻した。
室内の壁には亀裂が走っていたり、ところどころボロリ崩れ落ちている。指で簡単に大穴を開けられそうなくらいだ。逆に小さく覗き穴とか。
もちろん壁の反対側にも同じことがいえるわけで、だから隣が変な人だったら不安だったけど、会ってみたら優しそうな老夫婦だし現状は心配ないだろう。
まあ変なことされてないかどうか等は、いざとなれば振動とか空気の流れをこの
「……ってお父さんとの気持ちの問題をごまかそうとして、どうでもいいことばかり考えてしまったあああ」
ごまかそうとも、しっかり向き合おうとも、真実が変わるものでもないけれど。
そうだな。
自分でもう答え持ってるじゃないか。
真実はどうだか知らないけれど、「愛情はさして感じてはいなかったけど、感謝はしてる」これが間違いようのない現在の気持ち、ただそれだけだ。変化があったら、上書きすればいい。
この話は、これにて終了だ。
自分の心は強くもなく、またすぐ考えちゃうのかも知れないけど、とりあえずは終了。
では……
「ご飯、食べよう」
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