09 へんっしいいいいいん!

「では本日二回目の、気を取り直してえ、いっくぞおおおおお!」


 栗色髪の小柄な少女、とりはロボットのような真っ赤な金属の右腕をあらためて天へと突き上げた。

 金属の腕を、伸ばしたままですうっと下げて、正拳を突き出した格好になると、無骨な形状の腕に空いている小さな隙間に先ほどの鍵を差し込んで、ガチャリ捻った。


 ぶうん!


 アクセル全開といった低く高くうねる爆音が周囲に轟くと同時に、少女の身体がぶるぶるぶるっと激しく震えた。


「精霊マジック発動レベルワン!」


 小取美夜子の叫びとともに、真っ赤な金属の右腕から、ぼうっと音を立ててこれまた真っ赤な炎が噴き出した。

 神話の龍が吐き出した息吹ブレスであるかのように、炎は大きく広がった。


「磁界制御、力場制御、魔動ジェネレーターブーストアップ!」


 広がった炎が反対にぎゅうっと収束して、確かな感触のありそうなほどに濃密な数匹の蛇となり少女の全身をうねうねと這う。


 ごんごんごんごん、


 無骨な右腕の中からは、低い音。

 なにかの機械がゆっくり回転しているような。


 少女は叫ぶ。


「チェック完了! 内圧良好! へんっしーーーーん!」


 身体の表面を這いうねっていた炎の蛇が形を変えて、四足の大きな炎獣になって少女の前を駆け抜けると、少女の着ていた学校の制服が一瞬にして燃え尽きてぱちりとはぜて空気に溶けた。


 激しい眩さの中に、小柄な少女のシルエット。


 ごう


 また炎獣が駆け抜けると、少女の左腕は右腕と同様の真っ赤な金属に覆われていた。いや、変化していた。


 ごう


 炎獣が駆け抜けると、少女の太もも、すねが、足先が、両腕と同様に真っ赤な金属装甲の如き形状へと変じていた。


 さらに、胸が。

 さらに、腰が。

 美夜小の身体が、機体からだへと変化していく。


 どどどどどおおおん!

 夜のビル群で、大爆発の大爆音。

 大爆炎の中から、爆圧爆風に背中を押されて吹き上げられた、全身真っ赤な金属の少女が飛び出した。


 と、っと着地すると、元気よく右腕を天へと突き上げる。


「変身完了悪霊退散! めかまじょミヤコ! 悪い大人は、このあたしがお仕置きだあい!」


 赤い金属の少女、小取美夜子は変身ヒロインのお約束的に笑顔で名乗りを上げた。

 そして、すぐに顔を険しくさせて、凶悪犯の乗る二台のゼログラを見上げながら拳をぎゅっと握って腰を低くして身構えた。

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