第136話 星影たちへのプレゼント


 星影たちを見つけると、近くにはマナトさんとトシキさん、カズマさんがいた。星影を最初に見つけてくれた三人だからなのか、星影は素直に撫でられて喉を鳴らしていた。



「カズマさん、トシキさん、マナトさん」


「あ、サクラさん!」



 こちらを振り向いたマナトさんがボクの方に飛び込んできた。慌てて受け止めると、嬉しそうにふわふわとした笑顔を見せてくれた。



「サクラさん、すみません。マナト、危ないだろ」


「ごめんなさい」


「大丈夫ですよ」



 シュンとして俯いてしまったマナトさんの頭を撫でてあげると、マナトさんは顔を上げてにへっと笑ってくれた。カズマさんは小さくため息を吐くと、ボクに首を傾げた。



「それでサクラさん、どうしたんですか?」


「ああ、星影たちにプレゼントがあってね」



 プレゼント、という言葉に反応して星影たちが揃ってボクの足元に座った。



「ナァ」


「ニィ」


「ニュウ」


「ニェエ」



 全員いることを確認するみたいに声を上げた四匹の前にしゃがみ込んで順番におでこを撫でると、うっとりした表情を見せてくれた。それを見て、トシキさんが羨ましそうに頬を膨らませた。



「サクラさんが撫でると、みんな幸せそうだね」


「そうですか? トシキさんたちに撫でてもらっているときもかなりリラックスしているようですよ。特に星影はトシキさんたちに対しては大人しいですから」


「本当?」



 トシキさんは少し表情を明るくすると星影の頭を撫で始めた。カズマさんが花丸を、マナトさんが風月を撫で始めたからボクは餅雪を撫でた。餅雪はボクか千歳さん、御空さん、助さん以外に撫でられるのがあまり好きではなさそうだから。


 四匹の中でも一番警戒心が強い子だから、まだ全員を信用しきれていないのかもしれない。ちなみに琥珀さんに対してはまた違う。餅雪も楽しそうに逃げ回って撫でられてあげないだけ。琥珀さんが寝ていれば自分から擦り寄るくらいには懐いている。



「カズマくんたちも手伝ってくれませんか?」


「僕たちも?」



 不思議そうな顔をしている三人に、さっき助さんからもらった小魚を数匹手渡した。匂いに反応した四匹がジッと小魚から目を離さなくなる。



「まだダメだよ」


「ナァ」



 星影が不満げに鳴くと、子どもたちも同じように不満を訴えてくる。早くあげたいけど、同じタイミングで与えないと。食べ物は全て自分のものだと思って良そうな花丸は、タイミングをずらすとみんなの分まで食べようとするから。



「はい、良いよ。明けましておめでとう」



 全員の手に小魚が渡ったことを確認してから、丸めていた手を開いてあげる。同時に小魚にかぶりついた四匹はカジカジと食べ進める。


 キャットフードや野菜だと気にならないけれど、食事シーンには狩猟本能が見え隠れする。カズマさんたちが少し引き攣った顔で食事する星影たちを見つめているのを見て、ボクは頬を掻いた。



「ちょっと刺激的なシーンでしたか」


「ネズミよりマシです」



 不安だったけれど、カズマさんは達観した目で微笑みながら星影たちを見ていた。そういえば三人は星影を保護した時にネズミを食べる姿を見ていた。あのときは非常事態だったと言えど、見せて良いシーンだったのか今更申し訳なくなってきた。


 食べ終わった花丸がカズマさんの手に強請るようにすり寄る。カズマさんはもうないことを示すように手を開いて見せる。ボクは他の三匹も食べ終わったことを確認してからもう一匹ずつ配った。



「また同時にあげましょう」



 残りもあげてしまうと、星影たちは満足げに小魚をくれた人の手に擦り寄ってゴロゴロと喉を鳴らした。ボクに擦り寄った餅雪は、擦り寄ったついでにボクの手のひらも舐めてくれた。ザラザラした感触が心地良い。



「ふふっ、ありがとう」


「ニィ」



 感謝を伝えきって満足したらしい餅雪は、耳をピクリと反応させるとパッとどこかに走っていった。



「餅雪!」



 花丸ならまだしも、餅雪がどこかに行ってしまうことは初めてだ。慌てて餅雪を追いかけようとすると、ボクより早く星影と風月が走り出した。花丸はその場で眠っている。



「カズマさん、花丸を見ていてください、お願いします」


「はい、分かりました」



 花丸をその場に残してボクも餅雪を追いかける。社の裏手に向かった三匹を追いかけて角を曲がると、琥珀さんが蹲っていた。



「ニィ……」


「琥珀さん!」



 心配そうに見上げる餅雪の隣にしゃがみ込んで琥珀さんの顔を覗き込むと、目をギュッと瞑っていた。その目が薄っすらと開かれて、ボクを視界に捉えた瞬間琥珀さんはホッとしたように小さく笑った。


 だらりと垂れた手に餅雪が擦り寄ると、琥珀さんは眉をピクリと上げてへたっと笑った。



「餅雪、ありがとう。めっちゃ嬉しいわ」



 琥珀さんは餅雪の背中を撫で返すと、そのまま深く息を吐いた。



「えっと、とりあえず、誰か呼んできますね」


「待って」



 どうしたら良いか分からなくて助けを呼びに行こうとしたボクを、琥珀さんは呼び止めた。そして力なく首を振ると、眉を下げて笑った。



「今日はみんなに迷惑はかけられないから」


「でも!」


「大丈夫、少し休めば大丈夫……」



 琥珀さんが言い切る前にふらりと身体が揺れた。そのまま倒れ込む身体をどうにか支えた。



「琥珀さん! 琥珀さん!」



 琥珀さんは目を固く閉じて、動かなくなってしまった。


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