第113話 小さな村の助け合い


 四人は話が終わるとボクの方を見てニコニコと笑っていた。何か良い案が浮かんだのだろうか。ボクは耳を塞いでいた手を離して、ふるふると頭を振った。ずっと耳を塞いでいた分、いつもより聴覚が敏感になっている気がする。



「サクラ、かんざしはお正月までのお楽しみですからね」


「分かりました」



 どういう話になったかは分からないけど、ボクに希望がないのだから任せてしまおう。



「さてと、かんざしの話はこれくらいにして、サクラさんの袴を見て欲しいのよね」



 タエコさんはそう言うと、さっき開こうとしていた包みを開いた。今度は誰も遮る人はいないから、ファサッと包みが開かれて、淡い桜色の袴が現れた。



「綺麗……」


「その顔は気に入ってくれたのかしら?」



 タエコさんはボクの顔を覗き込むと、隣にいたキチサブロウさんの肩をバシバシと叩きながら笑った。キチサブロウさんもムフムフと笑って嬉しそうだ。



「こんなに素敵なものを着させていただいても良いんですか?」


「もちろんよ。サクラさんのためにこさえたんだから。これを着たサクラさんを見るのが楽しみだわ」



 そう言われると少し照れ臭い。



「タエコさん、キサブロウさん、ありがとうございました」


「いえいえ。それじゃ、お会計ね」



 タエコさんが御空さんを連れてお会計に向かう。するとアズキさんがボクの隣にスッと寄って来た。



「サクラさん、かんざし、楽しみにしててね!」


「はい。楽しみです」


「これからもサクラさんが何か困ったときは僕たちが力になるからね!」


「ふふっ、ありがとうございます」



 アズキさんはニヒッと笑ってくれた。とても頼もしい。ボクの方が長く生きているはずなのに、そしてボクがみんなを助けるべきなはずなのに。こんなに助けてもらって良いのだろうか。



「サクラ、そろそろ行きますよ」


「はい!」


「サクラさん、またね!」



 御空さんに手招かれて、アズキさんにブンブンと手を振られて【八屋】を出た。すると商店街を抜けた先、荷物を積み込み終わったらしい琥珀さんとクロトさんがいた。



「サクラ! 御空!」



 大きく手を振っている琥珀さんの元に行くと、クロトさんはボクたちに会釈して微笑んでくれた。



「サクラさん、お久しぶりです」


「お久しぶりです。最近はどうですか?」


「最近ですか? そうですね。アオイと一緒に暮らすようになったのでお店を空けることもできるようになって行動範囲が広がりました。今日もアオイが店番をしてくれているので琥珀のお手伝いをできましたから」


「本当に助かったよ。ありがとな」



 琥珀さんはクロトさんの肩をポンポンと叩く。



「それじゃあ、荷物は頼んで良いか?」


「任せてよ。それではサクラさん、御空さん。お先に失礼しますね」



 クロトさんは手を振って車の運転席に乗り込んだ。そしてそのまま車を発進させると、先に色守荘の方に走り去っていった。



「それじゃあ、琥珀はこれをお願いします」


「はいよ」



 御空さんはさっき【八屋】で受け取ったものたちを琥珀さんに預けた。琥珀さんはそれを軽々と、シワが付かないように持ってくれた。



「それじゃあ俺たちも帰ろうか」


「はい」


「そうですね。琥珀、荷物持ちありがとうございます」



 御空さんが首を傾けて微笑む。琥珀さんは少し考えると、ニッと笑って上目遣いに御空さんを見上げた。



「今日はシチューが食べたいな」


「分かりました。助の白菜や人参がたくさんありますから、具沢山のシチューを作りますね」


「やったね。ありがと」



 琥珀さんが御空さんに拳を突き出すと、御空さんは恥ずかしそうに拳を突き出してコツンとぶつけた。服の包みを全て片手で、形を崩さずに持つことができる琥珀さんって凄い。


 三人で並んで一緒に色守荘に向かって歩く。田んぼと畑が並ぶ開けたところまで行くと、山の上に向かっていくクロトさんの車が見えた。



「車って速いですね」


「まあ、この村は小さいからな。車なら端から端までもそんなに時間が掛からずに移動できるんだ」



 確かに色守荘からも村の端から端まで見渡せてしまうし、小さな村なのだということは分かる。だけど昔はたくさん人が住んでいたと言うし、今は田んぼや畑になっているところにも人の家があったのだろう。


 昔の姿も見てみたかったな。これから先、同じ景色をここに復活させることが簡単なことだとは思っていない。だけどもっとたくさんの人に吉津音村を好きだと思って欲しいし、吉津音村に生まれた人たちにこの村にいたいと思ってもらえるように頑張りたい。


 傍から見れば小さな村一つ。だけどたくさんの人に幸せになって欲しい。それに御空さんたちに聞いた話によれば、この村は彩葉さんのふるさとでもあるから。彩葉さんが帰って来たときに笑顔になれるように頑張りたい。



「帰ったらおせちづくりをしますからね」


「はい。ボクもお手伝いしますね!」


「俺は千歳と一緒に正月飾りを飾りに行ってくるな。助はキッチンにいた方が良いだろうから」


「ありがとうございます。社の方はよろしくお願いしますね」



 正月飾りの方も気になるけれど、おせちっていうのも気になる。うどんとお雑煮だけじゃない年越し。楽しみだな。



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