第98話 クリスマス
side紺野サクラ
アオイさんが村に住所を移して二週間。ボクは色守荘のリビングで子どもたちと一緒に机を運んだ。みんなで協力して準備をしたら、ボクの歓迎会のときと同じ光景が完成した。ただ一つだけ違うとすれば、庭に立てられたもみの木だろうか。
もみの木には千歳さんと御空さんが飾り付けたライトや飾りがたくさんつけられて、すっかりクリスマスっぽい。こんなに大きなクリスマスツリーを見たのは初めてで、ボクもすっかりクリスマス気分だ。
「サクラ、もうすぐ皆さんが来ますからね」
「はい! ではお出迎えに向かいますね」
御空さんに呼ばれて、今回も庭先に出ていく。御空さんと千歳さんと並んで村の人たちを待ちながら外からチラッとリビングの方を見ると、子どもたちが星影たちと楽しそうに遊んでいる。生後一か月を超えて、まだまだ世話が必要とはいえ、すっかり歩き回るようになった餅雪たちも子どもたちと遊んで楽しそうだ。
ボクも薬を飲むようになって、特に体調に異常はなく、毎週の検診を受けながら元気に生活している。
琥珀さんたちはボクが元気なら、と今年も盛大にクリスマス会を開催してくれた。村中の人を集めて、大人たちから子どもたちにプレゼントを用意したりするらしい。他にも料理を持ち寄ってみんなでおしゃべりもする、村中が楽しみにしているイベントらしい。
研究所でもクリスマスといえば、研究室に籠っている父さんは別として、彩葉さんが用意してくれる御馳走とケーキを食べる日だった。クリスマスツリーも森の木で代用して用意したから大きかったけど、もみの木でつくるクリスマスツリーは初めてだ。
ボクにはクリスマスプレゼントも初めてでよく分からないけど、御空さんに話を聞いて、ボクなりに用意もしてみた。せっかくならボクも精一杯楽しみたいから。
「サクラ、お久ぶりじゃの」
「お久しぶりです、村長さん」
今日も一番にやってきた村長さん。もちろん一緒にチヨさんやトシアキさん、イツキさん夫婦、トシユキさん、カズコさん夫婦もやってきた。今日もやっぱりトシアキさんとトシユキさんの見分けがつかない。
「サクラさん、トシキのこと、ありがとうございました。挨拶が遅れてすみません」
「いえ。トシキくんたちのおかげで星影や子どもたちと出会えたので、ボクの方こそ感謝しています」
お互いにペコペコとお辞儀し合っていると、村長さんがふぉっふぉっふぉ、と愉快そうに笑った。そしてブルッと身震いをすると、髭を撫でた。
「また後で話そうかね」
「はい、楽しみにしています」
村長さんたちが中に入って行くと、次に一ノ瀬家の人たちがやってきた。トヨカズさんはボクを一瞥すると眉を顰めた。
「サクラさん、すまないな。私はやはり、ネコを許すことができない」
「トヨカズさん……」
「だが、今ここにいるネコたちはサクラさんのことを信頼して、サクラさんもその子らを信じているんだよな? それなら私は、目の前の子たちをしっかり見る。時間は掛かるかもしれないが、毛嫌いはしないと誓う」
トヨカズさんは真っ直ぐな目でそう言うと、居たたまれなくなったのか一礼してボクの前から去って行った。嘘はないと思ったけれど不安が隠せない。お稲荷様の力を使ってトヨカズさんの背中を目で追うと、トヨカズさんの中にいる子犬がチラチラとこちらを見ているのが見えた。
「サクラさん、ごめんなさいね。あの人、頑固なところがあるから」
ボクがトヨカズさんをジッと見ていると、いつの間にかトヨカズさんの奥さん、一ノ瀬可奈子さんが隣に立っていたらしい。慌てて振り向くと、カナコさんは眉を下げて困ったように笑っていた。
「いえ。すぐに仲良くなんて、ネコたちもできませんから。ゆっくり関係を作って行ければ良いと、ボクは、そう思います」
途中から自信がなくなってしまったけれど、どうにかボクの気持ちを言葉にした。カナコさんはそれを聞くと驚いたように目を見開いて、それからふわりと優しく微笑んでくれた。
「ありがとうね、サクラさん」
カナコさんは満足げに一礼してトヨカズさんの後を追いかけていく。後から来たノリカズさんは慌ててボクに一礼すると、さらにそのカナコさんを追いかけて行ってその背中を支えた。
「慌ただしくてごめんな」
「ユミナさん」
ゆったりとやって来たユミナさんは、肩に足を縛ったイノシシを背負っていた。これを解体して調理しないことには食べられないと思うけれど、何のために持って来たんだろう。
「これ、精がつくから持ってきたんだよ。あとで助六に解体してもらって、御空に調理してもらいなね」
「わっ、ありがとうございます!」
「サクラさん、体調には十分気を付けるんだよ?」
「はい」
ユミナさんはニコリと微笑むと、イノシシを背負ったまま色守荘の方に入って行った。きっと中で助さんに追い出されて庭に連れ出されるだろう。千歳さんも御空さんも何も言わないし、ボクは次のお出迎えに集中しないと。
入り口に視線を戻すと、三田家の人たちがやって来た。
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