第61話 助六とサクラのお散歩道中

side山吹助六



 子ネコたちが生まれてもうすぐ2週間が経とうとするころ、子ネコたちの目が開いた。事前に春川さんから聞いていた通りみんな青い目だった。キトンブルーと言うらしい。


 今はリビングの大きな窓から強い日光が入らないように常にレースカーテンは引いたままにして、子ネコたちの目を守ろうとしているところだ。冬の陽射しはそこまで強くないけれど、念のため。


 それと今は星影とサクちゃんが子ネコたちのトイレの世話をしてくれているけれど、あと1、2週間もすれば自分でやってもらうことになる。そのための準備として御空が春川さん監修の元で小さなネコ用トイレを作っている。


 僕は僕で子ネコたちが動き回るようになる前に家中のコードにカバーを掛けて回った。他にも星影用のキャットタワーに子ネコたちが登ってしまったとき、落ちても怪我をしないように下にふかふかのカーペットを敷き詰めたりしている。


 そんな準備を進める中、今日は琥珀の運転で春川さんが隣町のペットショップに行っている。まだ足りていないものを買ったり、ご飯を買い足したり。御空に何かあったときのことも考えて、子ネコたち用にレトルトの離乳食もいくつか買ってきてもらうことになっている。


 ネコたちはというと今日は御空と、遊びに来たツクヨくんが見守っていてくれている。黒川月夜くんは【黒川精肉店】の長男だ。本人は肉屋ではなく村役場の職員で、琥珀の先輩にあたる。だけど僕たちからしたら、今も変わらずよく一緒に遊んでくれた優しいお兄ちゃんのままだ。


 ツクヨくんは御空と六歳差だけど、お互いに読書が好きだからよく一緒に図書館にいた。好きな本のジャンルも似ているから、良いと思った本を紹介し合っている。僕は外で遊ぶことが多かったけど読書が好きだったから、実は読書仲間で仲が良かったりもする。


 星影はツクヨくんが大柄だからか最初こそ警戒していたけれど、サクちゃんが仲良くなろうとしているのを見て気が変わったらしい。子ネコたちに近づかなければ同じ部屋にいても威嚇しないでいてくれる。


 というわけでネコたちは任せてしまうことになった。千歳はそろそろ締め切りがあるのに枚数が足りていないからと、本業である写真を撮りに出かけて行った。僕はと言うと、今日は村の散策がてらお使いに行ってくることにした。


 僕もちょうど買いたいものがあるし、御空に頼まれた食材も買って帰る。せっかくだから、最近は色守荘か社に籠りがちなサクちゃんも連れて村に下りてきた。


 最初は僕の用事から。もう冬がやって来たから腐らせることはないとはいえ、食材を持ち歩きながら歩きたくはない。



「最初はどこに行くんですか?」


「うーん、そうだなぁ。まずは【シルクロード】に行こう!」


「洋服屋さんですね」



 【シルクロード】は蜂須賀絹さんと亘さん夫妻が営む服飾店だ。吉津音村で唯一洋服を扱っているお店でもある。



「冬になるのに、サクちゃんのコートを買ってなかったでしょ? だから一緒に買いに行きたかったんだよね」


「ありがとうございます」



 サクちゃんは耳を垂れさせて申し訳なさそうにしている。慣れないものを与えられるときにはまだ委縮してしまうみたいだけど、少しずつ慣れていってくれれば大丈夫。


 同じ道を通るだけだとつまらない。行きは村役場の正面入り口の方を回ってから色守荘から見て反対側にある商店街入り口に向かった。



「村役場には来たことがあるんだよね?」


「はい、琥珀さんに連れて来ていただいて」


「村役場と同じ敷地には四葉タクシーとか七瀬医院とか、あと郵便局も併設されているんだよ」



 四葉タクシーはミヅキの、七瀬医院はトオルの実家が経営している。両家とも家がこのもう一本向こうの路地に面した場所に建っていて、そっちもお隣さん同士。家同士の仲はかなり良い。


 ただしそこに婚姻関係が絡んでくるかといえば話は別。四葉家のおばあちゃん、ツキカさんは五代家の長女だし、その娘のシヅキさんの元に婿入りしたのは六川家の次男のジョウタロウさんだ。


 ちなみに七瀬家と四葉家の裏に建っている豪邸が京藤家の屋敷だ。今は誰も住んでいないけれど、定期的に手入れをしている。色守の当主が生きて帰って来るか、僕たちがそれぞれ結婚をして子どもができたとき、そうする方が良いと判断したら僕たちは実家に戻ることになると思う。


 今僕たちが住んでいるところは色守家の敷地で、元々は僕たち四家の人間は自宅から色守荘に通っていた。だけど色守の当主が不在の今は色守荘に住み込みの状態で、自分の実家に帰っていなさ過ぎて自分の家だという自覚が薄い。



「あ、このお屋敷が僕の実家ね」



 僕の実家は村役場の敷地の隣、カフェ【Dolphin】の隣にある豪邸。ちょうど通り道に建っているから一応教えると、サクちゃんは大きなお口をぽかんと開けたまま固まってしまった。



「お、おっきいですね」



 何とか絞り出された感想につい笑いそうになったけれど、ここは耐える。



「そうでしょ。また今度、中も案内してあげる。琥珀たちもそれぞれ実家があるから今度連れて行ってもらいなよ」


「は、はい」



 サクちゃんはガチガチに緊張してしまっているけれど、色守荘はうちの実家より全然大きい。元々旅館だったから大きくて当然だと思われがちだけど、そのさらに元を辿ればお稲荷様に仕えた直系の一族だ。つまり色守家こそ、この地の支配者の一族だった。



「ま、今日は商店街ね。行こう!」


「おー!」



 二人で拳を突き上げてから一度大通りに出て、隣の路地に作られた吉津音商店街のアーチを潜った。

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