第50話 お弁当と繋がり


 トモアキさんがマナトさんたちを連れて帰って行くのを見送って、ボクはソファで眠る星影の隣に腰を下ろした。星影の背中をのんびり撫でていると、大窓から入ってくる陽射しがポカポカしていてボクも眠たくなってきた。


 ぎゅるるるる


 その前に、お腹空いたかも。トモアキさんが取っておいてくれたものもちゃんと食べたし、お腹いっぱいとまではいかなくてもしばらくは大丈夫かと思ったのに。



「サークちゃん!」



 後ろから腕を回されて、助さんはボクの首元に顔を埋めた。



「ちょっとお腹空いたかな?」


「そうなんです。さっき食べたばかりなのに」


「そっかそっか。ふふっ、ちょっとびっくりした顔をしてるね」



 頬をツンツンとつつかれて擽ったい。でも確かに驚いた。今まで少し食べればしばらくは空腹を感じなくて、食べられるものが目の前に出てくればお腹が空いた。それが普通だったのに。



「サクちゃんは最近食べられる量も安定してきているし、良い兆候だと思うよ。一日三食、健康的に必要な量を食べる。これからはそれで良いんだよ。食べ物に不自由はさせないように俺たちも頑張るからね」



 サラリと髪を梳くように撫でられて擽ったい。これで良いんだと言われると、少しホッとする。



「サクラ、さっきミツヨさんとカズキさんが持ってきてくださったお弁当です。温めてきたので、どうぞ」


「ありがとうございます!」



 御空さんに呼ばれてダイニングテーブルの方に行くと、少し小さめの、今のボクにはちょうどいいくらいのサイズの平たいお弁当箱があった。



「オープン!」



 助さんが蓋を開けてくれて中を覗くと、白と黄色の不思議なご飯とトロトロした照りのあるふわふわしたソースがかけられたハンバーグ、昆布のソースか何かが絡められたトマトとブロッコリー、そして黄色いふわふわしている卵焼き。



「こっちは郵便屋さんのショウタが持ってきてくれた漬物ですよ。ナスのぬか漬けとカブの浅漬け、野沢菜漬けの三種類です」


「これ、全部ショウタさんが漬けたんですか?」



 千代田翔太さんは村の郵便屋さんだ。この村の出身ではなくて、御空さんと地元が同じで歳も一つしか違わないこともあって仲が良いらしい。千の名字を持つけど数の家の人ではないのが、ちょっとややこしいところ。


 流石は村唯一の郵便屋さんと言うこともあって、朝刊が届かないとショウタさんが倒れているんじゃないかと村中の人たちが慌ててショウタさんの家に押し掛けるらしい。ショウタさんは困ったようにそのときの話をしていたけれど、どこか嬉しそうにも見えた。



「うん、ショウタはこの村で一番の漬物名人なんだよ」


「八百屋【十日市】でもショウタの漬物を売っているんですよ」



 八百屋【十日市】はさっき助さんと一緒にデザートのケーキを用意してくれたメイサさんの実家だ。ハッサクさん、サクラコさん夫婦が切り盛りしている【十日市】は村で野菜をやり取りするときの窓口になっているという。


 村の農家さんたちが村の人たちに向けて売りたい分は【十日市】に卸して、みんなはそこで買う。昔彩葉さんが買ってくれた社会科の教科書に書いてあった地産地消のシステムが完成している。


 ちなみにハッサクさんは、前に社にカボチャとサツマイモのクッキーを持ってきてくれたりお茶の淹れ方を教えてくれたあのカヨさんの末の息子さんだと言う。カヨさんには八人の子どもがいるけれど、村にいるのは長女のミオさんとハッサクさんだけらしい。


 サクラコさんも村の床屋さんの娘さんだったかな。結構いろいろなところに血縁関係があるらしいけれど、今はまだよく分かっていないところも多い。考え始めたら頭が混乱してきた。



「いただきます」



 今はとりあえず、空腹を満たすことにしよう。そう思ってまずハンバーグを一口食べると、ハンバーグは口の中に入れた途端にホロホロと崩れて消えていった。こってりしたソースがお肉の旨味と一緒に口の中に残っているから、ご飯が欲しくなる。


 ご飯を食べれば、ご飯以外の甘味を感じて美味しい。心做しかモチモチしている気がする。



「美味し」


「ハンバーグはミツヨさんの得意料理でね、これを食べてほっぺが落ちない人なんていないんだよ」


「分かります」



 まだ一口しか食べていないのに、頬がちゃんとついているか確認しないといけないくらい美味しい。何故か自慢げな助さんについ食い気味で答えてしまうくらいには胃袋を掴まれてしまった。



「このご飯も、何か違いますよね?」


「うん、これはきびご飯だよ。【百田食堂】では白米ときびご飯と五穀米と、あとまだあるよね?」


「そうですね、玄米とかの日は多い気がします。日替わりで二種類用意してくれていて好きなものを選ばせてくれるんですけど、オススメを頼むのが鉄板ですよ。ミツヨさんのチョイスに間違いはないですからね」



 助さんに声をかけられたとき、ちょうどキッチンから出てきた御空さんが持つお盆には三つのティーカップと一つの湯呑みが置かれていた。



「サクラには玄米茶を淹れましたから、ハンバーグともお漬物とも合うと思いますよ」



 御空さんはボクに湯呑みを渡して、千歳さんを呼びに行った。



「御空さんの気遣いも間違いないですよね」


「それね」



 隣で紅茶を啜る助さんと顔を見合せて微笑んだ。



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作者あとがき


本日近況ノートにて

『お稲荷様のお使いはじめましたが、村人が多すぎて覚えられません!~二宮の巻~』

を更新いたしました。

ぜひご覧ください。


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