第42話 肩と両腕
四人の子どもたちにじっと見つめられて戸惑っていると、琥珀さんは苦笑いしながら身体中にぶら下げていた四人を降ろした。
「とりあえず自己紹介だけしておくか? トオルとショウマも……って、トオル、ショウマは?」
「ショウマくんならホナミちゃん手伝いに庭に行きましたよ」
「有難い。ショウマはまたあとでだな。トオルおいで」
机で一人座ってみんなの様子を眺めていた男の子もこっちに来ると、座布団の方で暇を持て余していたらしいみんなが全員集まった。琥珀さんが何やら子どもたちの並び順を動かすと、一番小さい子の肩を叩いた。
「じゃあ、マナトからな」
「うん。三田真人です。小学校一年生です」
「あなたがマナトさんでしたか。ボクを見つけてくれた方の一人ですよね。ありがとうございました」
マナトさんの目線の高さに合うようにしゃがむと、マナトさんは穏やかな笑みを浮かべてくれた。どこかで見たことがある気がして首を傾げると、上から琥珀さんの豪快な笑い声が降って来た。
「サクラ、マナトはトモアキの弟だよ」
そう言われてトモアキさんの顔と見比べると、確かにそっくりだ。そういえばトモアキさんの服を受け取ったときにも、御空さんがそんなことを言っていた気がする。
「マナトが僕と体格が近いと教えてくれたので服を持ってきたんですよ」
ボクがこっちに気を取られている間に残りを包み終わったトモアキさんは、カウンター越しに御空さんに餃子を渡して戻って来た。トモアキさんの言葉を聞いて、確かそれも御空さんに聞いた気がする、とぼんやり思い出した。
「そうだったんですね。マナトさん、ありがとうございました」
「ううん、僕は眷属様に会えて嬉しかったって言っただけだもん」
照れたようにニヘラと笑ったマナトさんはトモアキさんの方に走っていくと、トモアキさんの足の後ろに隠れてしまった。何かしてしまったわけではないと思うけれど心配になってトモアキさんを見上げると、トモアキさんは愛おし気にマナトさんを見つめていた。
「ちょっと緊張しているんだと思います。マナト、可愛い人に弱いので」
「か、かわっ……え、えと、ありがとうございます?」
マナトさんを見ていた眼差しと同じ目を向けられて、ボクの方こそ緊張してしまう。ボクがまだドキドキしている心臓を抑えていると、琥珀さんがここにいる中で唯一の女の子の背中を押した。
「一ノ瀬結奈です! 小学校三年生です!」
「ユイナさんですね。とても元気が良いですね」
「えへへっ、ありがとうございます! でもね、みんなユイのことうるさいって言うんだよ?」
ユイナさんがぷくっと頬を膨らませると、後ろに立っていたみんなが苦笑いを浮かべた。きっとずっとこんなテンションなんだろうな。けれど本気で嫌そうな顔をしている人はいないみたいだから、みんなにはこの元気さがきちんと受け入れられているのだろう。
「時と場合、というやつですね。でも、社にいらっしゃるときには気にしなくて良いですからね」
「良いの? やったぁ!」
ピョンピョンと飛び跳ねるユイナさんを琥珀さんが捕まえた。
「今はご飯に埃が入るからダメ」
「はぁい」
琥珀さんに注意されたユイナさんは一瞬だけ拗ねたように頬を膨らませたけれど、すぐにニパッと笑った。ここでは持て余してしまうエネルギーも、あの静かな社ではちょうどいい活気になってくれるだろう。
「妹がすみません。ユイナの兄の一ノ瀬和馬です。小学五年生で、休みの日はよく畑にいるのであまりお社には行けないかもしれません。よろしくお願いします」
カズマさんは物腰が低くて落ち着いている印象を受ける。ユイナさんのお兄さんだというけれど、性格は真逆なようだ。
「それは構いませんよ。カズマさんはお家のお手伝いを?」
「はい。うちの畑はすごく広いので人手が必要で」
「一ノ瀬の家はうちの村で一番の耕地面積を誇る豪農だからな」
琥珀さんによると、この村にある農地の半分近くが一ノ瀬家の土地だと言う。元々は四分の一を占めるくらいだったけれど、この村を去った人たちの土地を引き受けてくれたことで今の土地の量になったという。
「お兄ちゃん凄いんだよ! 機械はなんでも動かせてね、大きなトラクターも乗りこなしちゃうんだよ!」
「え? 車の運転は十八歳からでは?」
「ええっとな、私有地内なら大丈夫……って話の前に、多分トラクターが分かってねぇな?」
ユイナさんの言葉に戸惑っていると、琥珀さんが呆れたように頬を掻いた。
「分かりますよ。荷台が付いた車でしょう?」
「……んー、今度見せてもらおうな」
「はい、いつでも見に来てください」
ということは違ったらしい。昔彩葉さんに見せてもらった写真では、畑で作業する人たちが白い車の荷台に籠を載せていた。トラックっていう乗り物だって教えてもらったし、それだと思ったんだけどな。
「お邪魔しますね?」
「はい、ぜひ」
カズマさんがニコリと笑いながら琥珀さんの腕からユイナさんを引き取った。その力強さに、きっと本当にいつも家の手伝いをしているんだろうなと感じた。
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