村の一員

第39話 村の子どもたち


 契約をして過去を思い出して。かなり体力を使ってしまって歩けなくなったサクラをまた琥珀が背負って帰ってきた。翌日は丸一日寝込んでいたから心配になったけど、その次の日にはすっかり元気になったようだった。


 朝起きてからは今夜開かれるサクラの歓迎会の準備を手伝おうとしてくれたけど、病み上がりの人を働かせたい人はこの家にいないから全員で止めに入った。そのかいあって今はおとなしくキッチンの目の前に動かされたソファに座って紅茶を飲んでいる。



「サクラ、本当に身体に辛いところはないですか?」


「ないですよ。安心してください」



 すっかり心配性になってしまった御空がキッチンから声を掛けてしきりに確認するものだから、サクラも笑ってしまっている。


 御空と助六がキッチンで料理をしながらサクラの様子を見てくれていることに安心して、私は琥珀と二人でソファや机を動かしてすっかり何もなくなったリビングの掃除をした。掃除を終えると今度は庭に出る。庭の隅に置かれた物置、というには大きな小屋から色守旅館で使っていた長机や座布団、そしてバーベキュー用に買っておいた外用の机と椅子を引っ張り出した。



「琥珀さん! 千歳さん!」



 必要なものを全て引っ張り出して一息ついていたところを元気の良い声に呼ばれて振り返る。ぞろぞろと坂を登ってきたのは十五人の子どもたちだった。つまりこの村に住んでいる小学生以上大学生以下の子たち全員。



「どした?」


「お手伝いに来ました!」



 最年長で今は唯一の大学生でもあるホナミが代表して言うと、ほかのみんなもコクコクと頷く。正直人手が欲しかったところではあるから凄く助かった。


 琥珀に目配せされて、俺は頷いてから家の中に戻ってキッチンに向かった。



「御空、子どもたちがみんなで手伝いに来てくれたけど、こっち何人欲しい?」


「あー、じゃあ、コウキとメイサとサツキと、あとトモアキこっち来てくれる?」



 料理ができる中学生以上は全員持って行かれた。



「分かった。呼んでくる」



 庭に出て四人に声を掛けると、四人はパタパタと家の中に入って行った。



「さてと。じゃあ俺たちはテーブルの準備だな。ユイナとミコトとマナトはこっちの座布団、あとトシキとミヅキとカズマは外用の椅子を運んでくれるか?」


「了解」


「ナオとホナミは千歳と一緒にこっちのアルミの机、トオルとアズキとショウマは俺と一緒に木の机な。怪我には気をつけろよ?」


「はーい!」



 全員が返事をしてそれぞれ分担されたものを持つ。



「外の配置は千歳よろしく。中は俺が行くから」


「分かった」



 琥珀がトオルと一緒に机を持って家に入っていくと、アズキとショウマも同じように机を持って行く。身長差だけで言ったら中学生コンビと琥珀とショウマのコンビのほうが運びやすそうだけど、トオルとアズキの二人であの重たい机を運ぶのは難しかったんだろう。私と御空で運ぼうとしてもヨロヨロする重さだし。


 小学校低学年のマナトたちも座布団を一枚ずつ、もしくは二枚ずつ持って運んでくれて有難い。少しずつでも運んでくれるならば時間にもしっかり間に合いそうだ。


 七人が家の中に入って行ったのを見送ってから残っている五人と一緒にアルミの椅子と机をリビングの大窓の前に移動させた。さすがに大学生のホナミと高校生のナオがいれば机を運び終わるのもあっという間で、それからは椅子を人数分運んだ。



「みんなありがとう。みんなのおかげで早く終わったよ」


「じゃあ、私は座布団運ぶの手伝ってくるね」


「あ、私も行く!」


「俺も!」



 ホナミがまだまだ運び終わらなそうな座布団の山に駆け寄ると、ナオとカズマも走って行った。トシキとミヅキも行こうとしたけど、二人の肩に手を置いて止めた。二人はあまり体力がない方だし、机を拭いたりする方にも人手が欲しい。



「二人は私と一緒に机を拭いてくれるか?」


「うん」


「分かった!」



 少しはしゃいでいるトシキの手をミヅキが繋いでくれたから、二人を連れてキッチンに向かった。


 家に入ると、リビングに机や椅子を運んでいた面々が今度は配置を決めるためにバタバタ動き回っていた。キッチンの方に追いやられたダイニングテーブルではサツキがサラダを、トモアキとサクラが餃子を準備していた。キッチンの中を覗くとコウキと御空がフライパンを振って、メイサと助六がデザートのケーキの準備をしていた。



「千歳、どうしましたか?」


「雑巾もらおうと思って」


「あぁ、ありがとうございます。ちょっと待ってくださいね」



 コンロの火を弱めた御空は狭いながらも導線はきちんと確保してあるキッチンの中を簡単そうにすり抜けて、棚に備え付けたバーに掛けてあった雑巾を三枚、私たちの方に持ってきてくれた。



「キッチンは狭いので、お風呂場か外の水道で濡らしてもらえますか?」


「了解。よし、トシキ、ミヅキ、お風呂場行こうか」



 服を濡らさないことを考えると外よりはお風呂場の方が良いだろう。そう考えて後ろを振り返ったけれど、私のそこにいたはずの二人の姿がない。慌てて辺りを見回すと、サクラとトモアキの近くに二人の姿を見つけた。


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