第十八話 甘麦大棗湯をもらったよ!
「はあぁ……。」
珍しく、大川は自室で
三虎と二人きり。
三虎はつまみの、塩味のきいた豆菓子を大川にすすめる。
大川は、その乾燥した豆をコリッと口に含んで、酒をぐいとあおる。
「
……追い返した。
その事に後悔はない。
だが、今朝、最後の挨拶に来た時に、人払いをしたろ?
あの時、藤売は、……最後まで、口づけ一つ、してくださらないのね、と寂しそうに言って、涙をこぼしてた。
しおらしい態度だった。
少し胸が傷んだよ。」
大川はため息をついた。
「なんで初めから、あのようにしおらしく、
そうしていれば、藤売の望むものは手に入っただろうに。
「そうそう、
帰ってきて嬉しい。難隠人のために。」
「はい。」
と三虎が返事をする。
「はあぁ……。なんだか今宵は、久しぶりに肌さみしい気分だ。
古志加でも呼んで、
と、わざとらしく三虎を見る。
こいつ、昨日、賊を捕らえるドサクサのなかで、古志加を抱いていた。
(私は見たもんね……!)
三虎がはっと息をのんで、瞬時に身体を緊張させた。
「古志加は……、古志加は
青ざめた顔で、
「オレの、部下です。」
身じろぎもせず大川を見つめながら、苦しそうに言った。唇が震えてる。
いじめすぎたようだ。
はは……、とすこし苦笑し、大川は自分の顔に手をあてた。
熱い。酔ってる。
「冗談だよ。本気にとるな。
私は、妻を迎える日が先に伸びたことに安堵してる。
とくに、自分で夜忍んでくる女と、怖い女は。三虎、覚えておけ。」
はっきりした声で告げた。
「はい。」
と三虎が頭を下げる。
* * *
「お、なんだそりゃ。」
辰はじめの刻(朝7時)。
朝の見廻りに、大川さまの後ろで、大川さまと自分の馬をひいてきた三虎が、古志加を見た第一声だった。
「え、えへへ。」
ちょっと顔を赤くして、古志加は笑った。
両耳には、藤売の耳を飾っていた紅珊瑚の耳飾りが、明るく鮮やかな光を放っている。
「藤売さまにいただいたの。」
「へえ。そうか。良かったな。見廻りが終わったら、一緒に来い。」
と、さっさと三虎は大川さまに馬をわたしに行ってしまった。
はぁ、と古志加は肩の力を抜いた。
やはり、気恥ずかしい。
でも、頑張ると藤売と約束した。
女官でも、
でもこの組み合わせは、あたしだけ。
それが、あたしだ。
* * *
朝の見廻りを終えて、三虎に連れられて二人で屋敷の
「
藤売が来る前、
「嵐みたいな
去ってくれて良かった。
だが紅珊瑚を貰うとは……。さんざん苛められてたのにな。気に入られたのか? おまえ……。」
前を行く三虎が不思議そうに言う。
「わかりません。」
古志加は正直に答える。
難隠人さまへの態度や、古志加を池に飛びこむよう仕向けたことは、到底許せない。
だが、藤売を思い出すと、あの奇妙な優しさと、美しさが古志加の胸に蘇る。
本当に、わからない
大豪族の娘なのだ。
大川さまの部屋についた。
広い部屋は、三虎とあたし二人いても、がらんとしている。
「大川さまが
前におまえに飲ませたやつだ。
大川さまはお優しい。感謝しろよ。」
紙包みに入った薬を
「はい。感謝します。あたしだけですか?」
もう、先日、賊を退治した褒美で、卯団全員塩壺を三壺、特別に頂戴している。
さらに古志加は加えて、塩壺二壺、花麻呂は五壺、薩人は七壺、頂戴している。
この上、古志加だけ高価な薬湯をいただいては、もらいすぎて恐縮だ。
「あと、姉上にも。」
三虎が薬を大きい束、小さい束、2つに分け、麻紐でしばり始める。
「女官としての褒美と考えれば良い。」
そんなことは考えていなかった。
古志加は目をぱちぱちさせて、
「はあ。」
と言った。
「あと、夜はあまり、ここのまわりをうろつくな。
務めが終わったら、まっすぐ女官部屋へ帰れ。」
大川さまの部屋のまわりをうろついた覚えはない。
古志加は首をかしげて、
「はあ。」
と言った。
「ああそうだ、おまえオレのこと嫌いだってな。」
意地悪くニヤリと笑いながら三虎が言った。
「はわわっ……!」
古志加は慌てて、変な悲鳴をあげてしまう。
酷い誤解をされている。
(謝らねば!)
「そんなことありません。あの時のことは謝ります三虎。あたし、あたしは、三虎が大好きです。」
と頬を
三虎の動きが止まり、笑いが顔から消えた。
ぽんにゃっぷ様から、ファンアートを頂戴しました。
ぽんにゃっぷ様、ありがとうございました。↓
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093074328117016
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