第八話  ✤✤登場人物一覧・あらすじ✤✤

【あらすじ】

 奈良時代。

 郷長に母刀自ははとじをさらわれ、殺された古志加。

 ホンマモンのえらい若様と、その従者に拾われ、お屋敷で働くことに。

 それは良いけど、本当は女の子って、誰も気がついてくれない……?!



 ◆吉弥侯部きみこべの 古志加こじか古流波こるは)……主人公。10歳。

 女の子だが、幼い頃より、女らしく振る舞う事を許してもらえず、男の子のように育つ。

 それが普通だったので、卯団うのだんの皆に男の子扱いされてる今が異常なのだとわかってない。

 母親がと発音できなかったので、という名前をいつも使う。一人称は、オレ。



 ◆石上部君いそのかみべのきみの 三虎みとら……この物語のヒーロー。

 16歳。

 大川の乳兄弟ちのとであり従者。

 上毛野衛士卯団長少尉かみつけのののえじうのだんちょうのしょうい

 豪族。

 いつも無表情かムッと不機嫌そうな顔。



 ◆上毛野君かみつけののきみの 大川おおかわ……上野国かみつけのくに大領たいりょうの息子、跡継ぎ。

 大豪族。

 地方行政のトップの息子と考えていただければ。

 くらいは、奈良から遣わされる国司こくしの方が上だが、国司は移り変わる。大領たいりょうは世襲。

 乱暴に言えば、上野国かみつけのくにだけを歩くなら王子様の扱いだ!

 絶世の美男子。

 独身。16歳。





 ✤古志加の家族。


 ◆吉弥侯部きみこべの 福成売ふくなりめ……古志加の母刀自ははとじ(母親)。美しい女性だった。

 郷長に手籠めにされ殺害された。

 一心に古志加を愛した。


 ◆吉弥侯部きみこべの 伊太知いたち……古志加の父親。右目に刀傷。

 福成売ふくなりめさらって妻にし、舌まで切った極悪人。失踪。



 


 ✤三虎の家族。

 ※父、母、姉、兄、が三虎にはいるが、4人とも、登場はこの先なので、読者は忘れて良し。(๑•̀ㅁ•́๑)✧

 三虎は、上毛野君かみつけののきみを支える名家の出身、という事を把握はあくしていただければ、けっこうです。


 ◆石上部君いそのかみべのきみの 八十敷やそしき……三虎の父。

 上毛野衛士団長大佐かみつけののえじだんちょうのたいさ

 衛士団のトップ。


 ◆石上部君 鎌売かまめ……三虎の母刀自。

 女官を取り仕切る女嬬にょじゅのトップ。厳しい。

 大川の乳母ちおも

 

 ◆有馬君ありまのきみの 日佐留売ひさるめ……三虎の姉。18歳。

 実質、女嬬にょじゅナンバー2。

 おっとりした微笑みの美女。


 ◆石上部君 布多未ふたみ──三虎の兄。17歳。

 上毛野衛士副団長大尉かみつけののえじふくだんちょうのたいい。衛士団ナンバー2。

 



 

 


 ✤上毛野衛士卯団かみつけののえじうのだん

(上毛野衛士団は四つの団に別れる。それぞれ、大志(一人)、少志(二人)をようす。)


 ◆荒弓あらゆみ──大志たいし。37歳。

 三虎は従者がメインなので実質、卯団うのだんを取り仕切る。頼れる人の良いおじさま。


 ◆薩人さつひと──少志しょうし。22歳。

 ひょうきんな細長いお兄さん。


 


 




    *   *   *




 おまけ。




 古流波こるはは、上毛野君かみつけののきみの屋敷の、石畳の道のわきにしゃがみこみ、雑草をせっせと抜いている。


 石畳の道の向こうから、人が歩いてくる気配がした。


(大川さまと三虎だ!)


 大川さまは、蘇芳すおうの色鮮やかな衣を、三虎は、胡桃くるみ色の衣を来て、背筋をピンと伸ばし、大川さまを先頭に、颯爽と歩いてくる。


(三虎、三虎……。)


 古流波は、すぐに道わきに立ち上がった。


(駆け寄っていって、話しかけたい。三虎の後ろをくっついて歩いてまわりたい。今日あったことを話して、くしゃくしゃと頭を撫でてほしい。)


 でも、三虎は従者のお勤めの最中だ。

 話しかけてはいけない。


 古流波は礼の姿勢をとり、目をふせ、二人が歩き去るのを待った。

 ふわり、と大川さまと三虎の、高価なお香の良い匂いが鼻をかすめ、さらさらと衣擦れの音も軽やかに、二人は黙って古流波の前を通りすぎた。


 古流波は礼の姿勢をほどき、二人の背中をじっと見送る。


(三虎。かっこいいなぁ……。

 オレの事をちっとも見てくれなかった。

 当たり前か。

 オレは、ここの、下人げにんのようなものだもん。)


 古流波の着ている衣は、擦り切れた灰汁あく色の衣。

 手指は、労働でいつもガサガサとしてるし、唇も、冷たい風にあたって、しょっちゅう切れてしまう。

 財産も、持ってない。

 持ってるものは、母刀自の形見のつみくしだけ。


 対して、あの人は、何でも持ってるのだろう。

 オレは、衣を一枚しか持ってないけど、三虎は、たくさん衣を持ってる。

 肌艶も良くて、良い匂いがして、文字の読み書きだってできる。


 三虎は豪族で、郷長の上の、少領しょうりょうの息子。名家の若さまだ。


(本来なら、オレは馴れ馴れしく喋りかけたりできない人なんだよね……。

 でもあの人は、毎晩、オレと一緒に寝てくれるし、初めて会った日、オレを強く抱きしめてくれたんだよ……。

 三虎のかたい胸、温かかった。

 心臓しんのぞうが、とく、とく、と脈打ってた。

 オレは三虎の胸までしか背丈がないから、抱きしめられると、すっぽり、三虎に埋まってしまった。

 腕の力が強かった……。)


 三虎に抱きしめられた時の事を思い出すと、頭がぽわん、として、幸せな気分になる。


 古流波はしばらく、その幸せな気分に浸り、


「ふう。」


 ぽわんとした熱気を吐き出すように、ため息をついて、気分を入れ替えてから、また、道わきの雑草を抜き始めた。






    ───完───


 



 

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