第二話 寝ワラをお願い
夜、女官部屋で、
「
あたしの
あたしにとって、福益売は大事なお姉さんなの。
大川さまの姿を見ることはできなくなっちゃうけど、お願い……。」
と、
「古志加、あたしも古志加が大好きよ。
古志加の恋が叶って、嬉しく思ってる。
でも、急なことだから、ちょっと、考えさせてくれる?」
と福益売は言った。
だが次の日の夜。
「古志加のくせっ毛は、あたしじゃなきゃ結えないわね。」
と明るく、
「ありがとう! 嬉しい! 大好き……。」
と古志加は福益売に抱きついた。
そして、三虎にお願いした。
福益売の
三虎は、
「わかった。」
とあっさり言った。
「
「川嶋と
体が大柄で、寡黙な川嶋は、賊の矢傷がもとで、
でも
「
別にこちらから辞めさせるわけじゃない。」
「そうなの……。わかった。」
見知った顔に護衛してもらうのは嬉しい。
「まあ、卯団にいたヤツなら、もし変な気起こしたら、オレがどうするか、良く分かってるからなぁ……。」
と三虎の目がギラリと光る。
「あはは……。考えすぎだよ。」
と古志加はくすぐったく笑う。
* * *
午の刻。(午前11時〜午後1時)
三虎と一緒に、古志加は桃色の衣を着て、卯団に顔を出す。
「わーい、皆───!」
もう、三虎が古志加を
子供っぽいが、見せびらかすようで嬉しい。
皆に抱きつこうとしたら、
「おまえはああ!」
と襟首を三虎に掴まれて、三虎の隣に引き戻された。
「す……、すみません。」
としおしおと古志加は謝る。
皆は、そんな二人を見て、ははは……、と明るく笑う。
* * *
帰りに
古志加は、ハッと閃いた。
(寝ワラですると、どんなだろう?)
今は、布団で寝る生活に慣れてしまっているが、清潔な寝ワラだって、充分寝るのに気持ち良い。
郷の
母刀自だって、寝ワラだった。
「三虎、あたし久しぶりに衛士舎の中が見たいなぁ。」
「あん? 何もないだろうよ……。」
と言いつつ、三虎は、しっかり古志加のお願いを叶えてくれる。
* * *
三虎と古志加は衛士舎の中へ入る。
誰もいない。
当たり前だ。今月は夜番の月ではない。
さっとあたりを見回した古志加が、いきなり三虎に抱きついてきた。
「おい。」
三虎は、昼間だぞ、やめないか、と言おうとするが、
「三虎、ここで今すぐさ寝して下さい。」
(嘘だろおおお!!)
「昼間!! 誰かに見られたら!」
と三虎は顔を引きつらせ、拒否するが、
「あたし寝ワラでしてみたい。
一度で良いんです。どうしても、してみたい。
三虎が奈良に行っても、これで耐えられます。
お願い。」
と矢継ぎ早に、潤んだ目で古志加が言う。
(うわああああ!!)
と三虎は心で絶叫し、体を震わせ、顔を真っ赤にし、だが、
「クソッ。」
と吐き捨て、素早く扉に向かう。
閉じてた扉を開け、ちょうど近くにいた花麻呂を呼び寄せる。
「なんです?」
ときょとんとした顔の花麻呂に、
「しばらく、ここで、四半刻、誰も中に入らないよう見張っておけ。」
と赤い顔のまま告げる。
「えっ……、ええっ……!!」
三虎と古志加が一緒に卯団を訪れたことは、花麻呂も知ってる。
花麻呂もみるみる顔を真っ赤にするが、かまわず、扉を閉める。
* * *
(本気かよ。昼間だぞ。)
命令は守る。衛士舎の扉を守り、花麻呂は汗をかく。
刺激。これが刺激的というものか。
今日、皆に言うべきか。
言わざるべきか。
二人はどうするのかな。
寝ワラの……、東の方かな。西の方かな。中央の方かな。
どこでいたすのでしょうか。
それとも全部使うんでしょうか。
(どう言おう────?!)
古志加の悲鳴が聞こえてきたら、どうしよう。
……ああそんな。こんなところで。こんな時間に。
ああ、三虎、おやめ下さい。誰かぁ……。
とか聞こえてきたら、オレはどうすれば……!
(うわああああ!! 古志加───ッ!)
と妄想を
ニョキッと三虎が顔をだし、
「オレじゃない。───古志加。」
と顔赤く告げた。
花麻呂は、あはは、と力が抜け、
「どうぞ、ごゆっくり。」
と言うしかない。扉はすぐ閉まった。
そして、花麻呂は思う。
(いやらしい、このタコ、は、おまえだ、古志加……!!)
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330661576436636
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