第二話
十一月中に、大川さまと三虎は、平城京に無事戻った、と
(無事……!)
ちょうど女官として、
「ああ……!」
十二歳の
六歳になった
「どうしたの? どうしたの?」
と大声を出してしまう。
「大丈夫、皆嬉しいんですよ。命の心配をして、それが晴れた時、人は泣くんですよ。」
と優しく言いきかせる。その福益売も泣いている。
ひときわ、古志加が大きな声で泣いている。
「わあ……! わああん……!」
膝立ちになった古志加が夢中で穎人さまに抱きついている。
穎人さまは古志加をしっかり抱きしめ、泣き、浄足は穎人さまに寄り添い、抱きしめ、泣き、日佐留売が、古志加を、穎人さまを、浄足を包むように抱きしめ、泣いている。
「……あたしも、あっち!」
と多知波奈売は大好きな穎人さまに背中から抱きついた。
「うん……、来い。多知波奈売。」
赤い顔で涙を流す穎人さまが、片手をほどき、多知波奈売も一緒に輪の中に入れてくれた。
涙がうつった。
多知波奈売も一緒に、泣く。
* * *
古志加は二十三歳となり、三虎は二十九歳となっていた。
白梅の花咲く広庭で。
古志加は卯団の衛士として、大川さまたちの帰還を遠巻きに迎えた。
(三虎……。三虎……。)
わああ、と皆が喜びの声をあげる。
いた。
先頭は大川さまの馬。
三虎も続いて、
(無事だ……!)
生きてる。
珍しく、顔が華やかに破顔して、出迎えの皆を見回している。
本当に、三虎も、帰ってこれて、嬉しいんだ。
よく見たい。
なのに涙があふれて、あふれて、良く見えない。
古志加は鼻をすすり、涙を袖で拭った。
大川さまが下馬し、すぐ後ろの
(おや……?)
その女は、肌が白い。雪のように白い。
大川さまも白いが、もっと白い。
顔色が悪いとかではなく、あんな白さの女は見たことがない。
それに、今、ちらっと遠目に見えた、目。
色が、青くなかったか?
* * *
その夜は祝宴となり、朝まで酒がふるまわれた。
なんと大川さまが妻を唐から連れ帰ってきた。
名を
大川さまが月なら可須美は明星。
二人並ぶと
その事実は
* * *
「帰ったぞぉぉ!」
翌日、
三虎は大声を出し、
「お帰りなさ───い!」
もう、昨日の宴で挨拶はすませたが、皆もちゃんとまた、帰還の
そして、ほいほいと皆、三虎に抱きつく。
あっという間に団子になる。圧がきつい。
(はっは……! これも生きて帰ってこれたからだな。)
そう思うと、むしろ愛おしい。三虎はしみじみとしてしまう。だが、
(あれ……。)
古志加の、
いた。
団子から遠いところで、じっとこちらを見ている。
となりに
花麻呂の方を向いたので、古志加の耳元で紅珊瑚が、チカっ、と赤く光った。
そして古志加は笑みでこちらをチラリと見て、そのまま荒弓のもとに整列しに向かう。
三虎の方に来ない。
(なんだよ……。)
昨日の祝宴の時にも、他の卯団の衛士と一緒に挨拶に来て、皆と同じようにニコニコしていたが、そのまま、他の衛士と一緒に引き上げていった。
別に抱きついて困らせるとかは、ない。
なんだか、今までの古志加からすると、肩すかしだ。
……おまえ、前に
たしかに四年たったけど。
せっかく帰ってきたんだから、もっと、何かあるんじゃないの。
オレが、誘われても何もしなかったから?
オレは、
「
と言ったんだが。
オレは帰ってきたんだが……!
「三虎!」
荒弓に呼ばれた。おっと、いけない。
立ち止まっていたようだ。
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