第四話 大川、雲雨之夢に困窘す。
※困り果てているのは著者です。
話は繋がるように作ってあります。
* * *
帰って行った人のことを思うと、寒い夜を、千回に重ねるほど
* * *
「ね──え、大川さま。
あたし、また来ちゃいました!」
夜の闇の中。
揺れる
その艶っぽい笑みには、
桂皮の
だが、その媚の色は、実は、
ただ、純粋に、強い稽古相手を欲してるだけだということを、私はもう知っている。
「もう肩治ったんですよ! だから次は組み稽古。ねえ、この前、剣の稽古、すごい良かったんです。
組み稽古もしたい!
お願いです、大川さま……。」
いいとも……。
待っていたよ、おまえが来ることを……。
「まったく、しょうがない衛士だな。」
私はくすりと笑って、望みに応えてやる。
そして、途中で……。
いや、この
きちんと負かす。
そして地に打ち倒し、
「あっ!」
と背中を地面につけた
そして無言で、私の稽古の終了の宣言を待つはずだ。
私はその顔を見下ろし、瞳の色が
口づけをするのだ。
もう……、途中でやめたりしない。
「あ……っ、大川さまっ?!」
突然のことで、動揺する
もうこれで逃げられない。
「おまえの願いを二回も叶えたのだ。私の願いも叶えてもらおう。
私は、おまえが欲しいのだ。おいで。」
「えっ? ……えっ?」
上に
女は抵抗らしい抵抗はできまい。
私が
私の唇をその身に受けながら、頬を赤くし、……目には涙を浮かべて、
「あ、あ、あたし、そんなつもりじゃ……。」
ぐらいは言うかもしれない。
この
知ってる。
この女は
大川が難隠人と食事をとる際、この
今までは、自分に向けられる視線ではないから、気にも
「一夜で良いのだ。これは夢と思え。
明日になれば忘れても良い。
だがもし、この一夜で
だから安心して……、これは夢と思い、この時を楽しめ。
私も夢と思う。
それでも桂皮の
「おまえは前に命を救われたな。
おまえを連れ帰ったのは三虎だが、救うよう命じたのは私だ。
今、その恩を返せ。」
と告げる。
私は久しぶりの。
本当に久しぶりの
背中を指でなぞり。
白い胸に顔を埋めたい。
優しく撫でさすり。
肌を重ね。
唇を重ねたい。
一夜のみなのだ。
指で。
あふれるほど濡れるまで。
いくらでも。
私は惜しまない……。
「あ……、お、大川さま……。」
良い。
恋うてる相手ではない
何も言わずとも良い。
私は潤ったなかにわけ入り、
どんなにか気持ち良いだろう。
もう十年、
だが、どうだろう、瞳の中の燃え立つ炎は……。
剣の稽古の時と同じように、瞳が強い光を宿すのか、さ
何度空想のなかでこの
「あ……、あ……、大川さま……。」
私は動きを早め、
「く、……
その名を口にしてしまう。
三虎に悪い、と思いながら。
私の身体は健康だ……。
私はどんな美女でも、欲をじっとりとにじませた女の目で見られると、
(ああ、本当に嫌。)
と心が、身体が、強く拒否してしまう。
手も握られたくない。
そんな目で見ないでほしい。
早くどこかへ行ってほしい。
そう思ってしまう。
そう思わずにいられたのは、桂皮の
奈良で何人かの男に言われた。
───大川さまは良いですな。
地方とはいえ、大豪族で、背も高く、教養もあり、そのような人目を引くお顔立ち……。
私もそのように生まれついてみたかったものですな……。
だが、そいつらは知らない。
何年も女の肌に触れず。
挙句の果て……。
叶わぬ空想を思い描くしかできない哀れな
これは恋ではない。
桂皮の
ただ、あの瞳が私は欲しいだけなのだ。
そういう
困ったことだ。
私は、桂皮の
たとえ酒に酔おうとも。
固くそう決めている。
桂皮の
たった一人の私の
失うことはできない。
それは三虎の想い人だ……。
あとになってから、かえすがえす、真夜中にひょっこり私の中庭に迷い込んできた桂皮の
口づけを……。
思いとどまっていなければ。
あれは誰も知りえぬ真夜中だったから。
そのまま……、夢のこととして。
一夜のみ。
そういうのが良いなぁ。
きっと……、私は
三虎から獲ろうなんて思ってない……。
私は何回か、月の出る夜。
桂皮の
来い、古志加。
次にこの
私は私に、一夜の夢を許す。
だが、
そして何もおこらず、
古志加が、佐久良売さまの
しかしそれは、短い間のこと。
私は、三虎に知られないように冷静に、何でも無いようにふるまえたはずだ。
そして、今宵。
美しい茜色の衣の、あでやかな古志加を見た。
(
ああもし……。
もし……。
三虎が恋うてる女でなければ。
古志加はこのような美しい姿で。
私の隣に
その胸……。
違う。
その顔をもっと良く見たい、と思い、古志加が舞の最中に
(あ。)
と息を詰め、
(ああ違った、そうだ、古志加は後ろにいる三虎を見たのだ。)
と思った。この後、
ふぅ、
三虎。
そのまま攫って、攫って、早く
でないと……。
私はまた
困ったことだ……。
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