第五話 白い布の白梅飾り
部屋に入ってきた
まだ季節ではないから、もちろん花の蕾はない。
そのかわりというように───。
白と
「あれっ、
ああ、じゃあ、出直すかなぁ。」
と薩人が焦ったような声を出す。
古志加は何かピンと来た。
三虎が口もとに笑みを浮かべ、
「出直す必要はない。
古志加、白湯のおかわりが欲しい。
お湯をもらってきてくれ。」
と言った。
「はい。」
古志加は倚子から立ち、礼をし、部屋を出た。
「……で、どう伝えましょう。」
薩人の声が聞こえる。
「便りの返事を伝える必要は無い。
今夜にも行く。」
とは三虎だ。
「へぇ? まだ怪我が……。」
「注意してやるさ。こんなことをする可愛い
三虎の声に笑みが含まれ、声音は優しい。
「たしかに。ああ、いいなぁ。
オレも一回でいいから、
「なら、おまえはもっと、一人を大事にしろ。」
三虎があきれたように言う。
もう充分だ。
そっと古志加はその場を離れた。
離れたところで
薩人のバカバカ。
あの美しい
三虎のバカバカ。
遊行女のもとで傷口が開いて、沢山流血して二人で慌てればいいんだ。
「ふ……っ。」
(最近のあたしは泣きすぎだ。
もう泣きたくない。)
でも、涙がつぅ、と頬を伝った。
(あたしは、何を期待していたんだろう?
三虎は恋うてもいないあたしを、慰めるためだけに抱きしめる人だった。
あの美しい
あたしのことは、バカなヤツ、って言うのに……。)
「ふぅっ。」
泣き声がもれ、涙が止まらない。
古志加は乱暴に涙をぬぐう。
「あら、古志加、どうしたの?」
顎のしゅっと尖った女官、
「あたし……、自分の愚かさに泣けてきて……。」
「
古志加も? 一緒に行きましょう。」
と福益売が肩を抱き寄せ、さすってくれた。
福益売は優しい。
ぱっと一つの考えが浮かんだ。
古志加は懐から、もらったばかりの、
「福益売。これね、三虎から、母刀自に、って貰ったの。
大川さまが使うのと同じ、貴重な
これ、福益売にあげる!」
そう言って、
「ええ? そんな貴重なもの、貰えないわ。」
福益売は首を振る。
だが、目が白い貝に吸い寄せられる。
「いいの。母刀自の墓に、って三虎はくれたけど、貴重なものでもあるから、あたしの好きにして良いって言ってくれたの。
あたし、福益売、大好き。
沢山、あたしの名を呼んでくれた。
母刀自も、笑って許してくれると思う。
土に埋めるより、福益売に使ってほしいの。」
本当だ。
母刀自はもう、充分、満足そうに笑っていた。
「古志加……。」
と福益売は迷いつつ、白い貝を開いた。
中の練り香油から立ち昇る、
「本当、大川さまの
目を潤ませ、
「あたし、一生、大切にする。ありがとう、古志加。」
と福益売は古志加に抱きついた。
わかる。
日佐留売の金の
あたしの三虎の衣と浅香の匂い袋も。
福益売の
女の心の中の秘密。
一つ持っているだけで、眺めるだけで、なんと心の慰められることか。
唐突に
「持ち物全部奪われて、衣までとられて、何一つ、あたくしの手元には残されてはいないけれど、それでもあたしくしの……。
恋うる心までは盗れないわ。」
と言っていた藤売の辛さが胸をさした。
それでも、藤売は涙を浮かべ、美しく笑っていた。
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