心のひだ魂の深く、其の三
三虎の無表情な顔が近い。
「顔を見せてみろ。」
三虎は古志加の額を見つめ、そっと、もう
「傷つけるつもりでは……。
いや、
と、ため息をついた。
その言葉が、古志加の喉奥の体の内側を、白絹がサラサラと触れていくように、なで上げていった。
「あたし、平気です。親父が
古志加は顔をぐっと歪めながら言い、すぐ顔の力を抜いて、
「でも三虎の投げた
すこし口もとに笑みを
「はは……。強いな。オレはおまえの、そういう強いところが好きだ。」
と三虎は口もとに軽い笑みを浮かべて言った。
(えっ!)
古志加は目を見開き、息をつめた。
(今、なんて……。)
いきなり
「花麻呂も、そういうところに惹かれるのかもな。
オレは今回、花麻呂に助けられた。
あと、
古志加を
「ひぇ……。」
驚きのあまり、
(花麻呂、三虎にそんなこと言ったの……?!)
あたしなら、きっと言えない。
「花麻呂はいいヤツだな。古志加。
軽い笑みのまま、三虎が言う。
「はい、花麻呂がまず、伏せろって、
あたしはすぐ
花麻呂はいくつかを消して、水をあたしにかけて、あたしのそばに水桶を一つ置いてくれました。
賊が六人はしごから上がってきて、花麻呂が一人で全員倒しました。
そこで燃え落ちた天井の木が、花麻呂に当たって倒れたので、あたしは鐘をつくのをやめ、花麻呂に水をかけ、花麻呂の身体を紐でしばって、櫓から降りました。」
そこで古志加は口を閉じ、口を湿らせ、
「おかげで
フン、と鼻息荒く言った。
「はは……。」
とうとう三虎は大きな声で愉快そうに笑った。
「うんうん。大川さまによく伝える。
期待してろ。」
と古志加の頭を左手でグリグリなでた。
その力は優しいものだったが、
「つっ!」
古志加は痛みで顔をしかめた。
頭には、あの
三虎はすぐ手を引っ込め、
「おまえ、ボロボロだなぁ。」
とあきれ、ひょいと首を動かし、古志加の額の傷に、軽く口づけをした。
柔らかい、優しい感触。
「あっ!」
古志加は息を呑み、真っ赤になり、口もとをふるわせながら、右手で額を押さえた。
「い、い、い、今の……!」
「今のは良い。なにせ、今のおまえは、オレにとっては
三虎が意地悪くニヤリと笑った。
古志加は、うう、と泣きそうになる。
(ずるい……!)
ずるすぎる。胸の鼓動の早鐘が止まらない。
一瞬の、優しい口づけ……。
唇の触れたあとが熱い。
「やっぱ、古流波なら、こっちだな。」
三虎が、もっと下にさがれ、と手で合図する。
素直に従い、顔が三虎の肩より下のところに自分の寝そべる身体をずらすと、
「わ!」
三虎の左手に抱きとめられた。
顔が三虎の胸に埋まる。
今日は、
「今夜は、朝までこうしといてやる。
どんな夢を見ようとも、オレが必ず夢から引き上げる。
どんなに魂を散り散りにしようとも、オレが必ず
お前をどこにも行かさない。
だから安心しろ。
安心して……、オレに全部話せ。」
固く古志加を抱きしめながら、三虎は言った。
古志加は身体を硬直させる。
(話せって、何を……?!)
「おまえは強い、古志加。
嫌な思いもしたろうが、まだ体は清いはずだ。
それで魂を散らすほど傷つくとは、オレの中のお前の姿と一致しない。
何があった。何かがあったな。話せ。」
三虎は揺るぎなく言うが、古志加は三虎の腕の中で、ガタガタと震え始めてしまう。
「古志加。」
怖い。
思い出すのも、形にして口に出すのも怖い。
なのにずっと、古志加の心の中に重くあり、出て行ってくれないもの。
「うっ……!」
震え、涙がせりあがり、顔を強く三虎の胸に押し付けてしまう。
ガタガタ、身体の震えが止まらない。
三虎は無言で待っている。
「三虎。さっきの、もう一度、言って下さい。強いって。」
「おまえは強い。古志加。」
「その、もうちょっと前……。あたしの、そういう強いところが、って。」
「オレはおまえの、そういう強いところが好きだ。」
三虎は低くささやく。
「ふぅぅ……。」
古志加は目を閉じ、心から湧き上がってくる熱いため息をもらす。
───あたしに勇気を。
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