第十四章 夢にそ見ゆる
白珠の恋、其の一
思った通り、
七歳である次代の跡継ぎ、
「まあ……!」
と
「
オレには自由に使える部屋がない。
今夜一晩だけ、
「……。」
日佐留売が迷う顔をする。
「けして生半可な気持ちで言ってるわけではありません。オレは失敗しない。必ず、
そう静かに、日佐留売の目を見て言うと、
「わかったわ……。ここから西へ三つ目の部屋を使いなさい。でも、嫌がるなら、ダメよ……?」
と日佐留売は古志加の夕餉を切り上げさせ、かわりに米菓子を阿古麻呂にもたせて、その部屋まで案内してくれた。
日佐留売はわかっている。
阿古麻呂がどのような方法で魂を呼ぶか。
その方法の後、米菓子があれば、疲れを癒やし、古志加が喜ぶであろうことを……。
古志加と二人きりになった。
古志加は倚子に座り、静かにしていたが、
「あたし、怖い夢を見るの。怖い……。」
と震えながら涙を零した。
「古志加……。」
いつも明るく笑い、剣を振るうときはあれほど剣気がきらきらしいのに、今、これだけ弱りきってしまっているのは、哀れであった。
(守ってあげたい。
なんとしても、怖い夢に囚われている今の状況から救わねば。)
毎夜、怖い夢を見続けるというのは、どういうことか。
阿古麻呂にはよくわかる。
……
跡取りのはずだった兄が、阿古麻呂が十五歳になる前に、落馬が原因で黄泉に渡ってしまった。
阿古麻呂は十五歳になっても、親父から衛士団の入団を許されず、
阿古麻呂は反発した。
十七歳のとき、
「楽しみを知らないからだ。」
と親父の手下達に無理やり、下人に落とされた
手下の
背中にくっきりと、肩甲骨から尻まで、なで斬られた刀傷が男にはあった。
阿古麻呂は頭が真っ白になって、牢に置いてあった棒を手にとり、あっという間にそこにいた手下六人を打ち倒した。
そして、牢にいた
屋敷に戻り、その事を堂々と親父に伝えたら、
そこまでは良かった……。
だがその四日後、
「まったく、これしか見つかりませんでしたぜ。」
と笑いながら親父の手下どもに見せられたのは。
助けた
毎夜、夢に見た。
今でもまだ、夢に見ることがある。
阿古麻呂は時々、わけのわからないことを口走るようになり、とうとう親父は阿古麻呂がこの仕事を継ぐのを諦め、
そして阿古麻呂はやっと、
(オレは念願の衛士団で、
古志加。
オレが、怖い夢をおまえから
必ず。
失敗はしない。
オレは一度、気が
もう、同じ過ちはおかさない。)
そして、気をひける、魂に響くような言葉を口にする。
(オレは古志加が恋いしい。
だが残念ながら、そこまで古志加のことを知ってるわけじゃない……。
慎重に行こう。)
「古志加、心配しないで。
ちゃんと
オレを信じて。」
阿古麻呂は優しく語りかけながら、倚子に座る古志加の前にひざまずき、視線をあわせ、頬を優しく両手で包んだ。
古志加は、頬に手が触れる直前、ピクリと肩を揺らしたが、大人しくしてる。
「
どのような事を言ってほしい?」
そう本人に直接聞いてみるが、古志加はまばたきし、
「わからない……。あたし、本当に、わからない……。」
とポツリと言う。
ではもう、真っ直ぐに勝負しよう。
「では、このような言葉はどうかな?
古志加は強い。」
古志加の目はぼんやりしている。
「古志加は綺麗だ。」
古志加の反応は鈍い。
「古志加は衛士の
前にそう言ったときには、確かに手応えがあった言葉だが、今は手応えがない。
「オレは古志加に恋してる。」
「………。」
心を込めて言うと、古志加の頬がほんのり染まった。
「オレは古志加が恋いしい。心から。」
古志加が身動きした。
「でもあたし……、
申し訳無さそうに古志加が下を向いた。
阿古麻呂は笑って、
「古志加、今は
妹となれるかどうかを問うているんじゃない。
でも、オレはこれから……、同じことをする。」
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