第四話
一包めは、
いただいてすぐ、せっかくだからと、
二包めは、
三虎が奈良に行ってしまうと聞いた日に、飲んだ。
三包めは、
花麻呂と
四包めは、
まだ一包、残ってる。
重い足を引きずり、よろよろと日佐留売の部屋に行く。
巳三つの刻。(午前11時)
「日佐留売……。あたしもうダメ……。あの
と泣き腫らしたひどい顔で、
部屋には、日佐留売と、
庭には、
「古志加! どうしたの?」
と日佐留売と二人の女官が口々に言い、その声につられて、こちらを見た難隠人さまが、
「てッ!」
布多未に頭を打ち
「───休憩。」
布多未がそう言ってくれる。
「本当は、昼番で、
ひっ、ひっ、としゃくりながら、古志加は口にするか迷い、
「ええん……。」
と
日佐留売が、古志加を取り囲んだ皆を見回し、無言でぐいぐいと、奥の部屋に古志加の腕を引っ張っていって、戸を閉めてくれた。
二人きりになり、ぼろぼろと涙をこぼしながら、
「三虎が、誰でもいいから、
なんとか断ったけど、あたし、あたし……。」
とそこまで言って、日佐留売に抱きつき、大声で泣き出した。
「あたし、せっかく、あの
一生無理だあ……。
ごめん、あたし、一生、
このまま衛士として、一人で生きる。」
と泣き声のあいまで日佐留売に言うと、
「古志加!
でも、一生、独り身なんて。本気なの?」
と日佐留売が驚いて言うので、うん、と古志加は頷き、
「もう、いいの……。」
と言った。
あの
三虎に口づけしてほしい、と思ってた。
でも、
本当に恋いしい人とでなければ、嫌だ。
「裸は恋する相手に見せてこそだ。オレだって
と言った花麻呂の言葉が、本当に心からわかる。
無理に、恋うてもいない
「ここで、遠くからでも、三虎を見て、衛士として過ごす方が、よっぽど、よっぽど良い。」
とぽつりと漏らすと、
日佐留売がはっ、と目を見開いた。
「古志加。」
と名を呼び、息をすい、目が、古志加を見ながら、すごく迷っている。口を開き、
「
と言いかけたが、それ以上言葉にせず、しっかと抱き寄せられた。
日佐留売が泣いている。
「あなた、三虎を
と日佐留売が問う。
「さすがに、手をとってもらうことは、諦めます。
でも、あたしが恋いしいのは、三虎だけ。」
その言葉を口にしたら、ずぐり、と胸がえぐられるように傷ついた。
もう……、
この恋しさは、あたしを傷つける。
あたしの心に血を流させる。
それでも、三虎への恋しさが、あたしの中で大きすぎて、なかったことにはできない。
嘘偽りを口にすることはできない。
「これからも、ずっと、ずっと、この恋しさを胸に抱いたまま、生きます。」
おそらく、泣くことになるだろう。
三虎がいつか、妻を得ても、あたしは見てるだけ。
三虎は、ほとんど奈良だ。
一年に何日か、
それを
寂しさに泣く夜もあるだろう。
でももう、いい。
ゆっくり、年をとっていく三虎を、
あたしは遠くから眺めて生きよう。
それでもう、いい。
あたしは剣を持ち、衛士として生きよう。
心は自由だ。
心の中だけで、三虎を
「く。」
日佐留売が身を震わせた。
「古志加、あなたは、それで良いわ。誰がなんと言おうと、あたしはあなたを応援するわ。」
と言ってくれた。
「ありがとう、日佐留売ぇ……。日佐留売、あたしのお姉さんみたい……。
日佐留売がいてくれて、あたし、良かったよぉ……。」
と言って、古志加は温かい涙を流した。
* * *
タン、と戸が開いて、手を繋いで出てきた古志加と日佐留売を見て、皆、ぎょっとした顔をした。
古志加ばかりか、日佐留売までも泣いているのは、どうしたことだろう?
「母刀自!」
「日佐留売!」
と浄足と難隠人が、心配そうに日佐留売に駆け寄る。
「ああ、大丈夫、大丈夫よ、ちょっとね……。」
と日佐留売は泣きながら笑い、
「ふっ。」
と泣き声を一つもらし、しゃがみこみ、二人の
「どうしたの?」
「日佐留売……?」
と二人は口々に言うが、その可愛らしい二人の頬に、日佐留売は顔を擦り寄せ、
「お二人ともお優しい……。優しくて、良い子で、あたしは本当に、お二人が大好きですよ。」
と言った。
「えへへへ……。」
と浄足は笑い、
「当然だっ!」
と難隠人は頬を赤くし、二人の
それで日佐留売が落ち着いた。
すっと立ち、
「甘糟売、薬湯をいれます。お湯を
と言い、
「古志加、今日はここで休んでらっしゃい。
福益売、
と言った。
「お、それなら、オレの名を使えよ、姉上。
今日はこの布多未が預かるってな。
そのほうが無用なやっかみが無いだろ。」
と布多未が涼しい顔で言う。
(気遣いできる人だなぁ……。)
と古志加は布多未を見る。
「それもそうね。福益売、あたしの部屋で布多未が預かると伝えてきて。」
と日佐留売が言い直し、二人の女官は礼をして部屋を出る。
二人の
「おう、古志加。やるぞ。」
「えっ、何を……?」
古志加はたじろぐ。
「何かあったんだろ? オレもむしゃくしゃする時はある。
そういう時は四つのことをする!」
と布多未は勢いよく四本の指を目の前に差し出した。
「剣! 弓!
それでスッキリしてから
あっ、五つだなあ、アッハッハ……!」
五指全てを立て、豪快に笑う。
日佐留売が頭を抱え、古志加は戸惑い、
「
「女だってさ……。」
と冷めた目で
「オイ! 女って言っても、ちゃんと
あとやっぱ四つだ。
むしゃくしゃした気分を己の
剣、弓、鉾で、むしゃくしゃをぶつけきる、
これが大事だぜ。」
(……今、馬が抜けましたね?)
と古志加は心の中でつぶやきつつ、この
「で、古志加、おまえは……、剣だな?」
と布多未がこちらを見る。
「ええ……。」
と古志加は首肯し、薄く笑う。
布多未との稽古……。
全身の
布多未は強い。
おそらくは、……荒弓より、三虎より。
「どうすっかなぁ……。せっかく衛士の
布多未がそう口にし、
口の端を釣り上げ、
「おまえら、血を見る覚悟はあるか?」
と笑った。
二人の
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