第十三話 竜騰虎闘
実力の拮抗している竜と虎が激しく闘う。
* * *
あの
昨日、いきなり何人かの女官を引き連れてやってきて、挨拶もそこそこに、
「
と、このあたくしに要求してきた。
あたくしは首をかしげ、優しい声音で
「あら……、あの女官は、それだけのことをしたのよ……?」
「お
誰一人です。お
(生意気な!)
あたくしは、もたれかかっていた
「あたくしは
じきに大川さまの
「ええ……。ですがここは客人の部屋。
そこに住まうあなたは、今はお客人です。」
「おまえ……! あたくしがここの主となったら、どうなるか……!」
あたくしはギリギリと睨みつけてやったが、
「じきに
さあ! 今すぐ罰を解きなさい!」
と日佐留売がバシリと言った。
殺しては
あたくしは歯ぎしりしながら、
「許す。」
と一言だけ言った。
あの
今まであたくしに
あたくしに崇拝と哀願の目をむけていた難隠人の態度が、よそよそしいものとなった。
あの
いや、大川さまは変わらない。よそよそしい。
(あの方は、始めも今もずっと、あたくしによそよそしい……!)
難隠人の
さすがに、ムチで
そしてあたくしはイライラした一日を過ごし、翌日。
古志加が復帰した。
かわらず、耳に紅珊瑚はない。
「昨日はお休みを戴きまして、ありがとうございました。」
「あたくしの言葉は身に沁みて?」
「はい。」
こちらをまっすぐ見る古志加の目は、強い光をたたえている。
あれだけの罰をくれてやったのに、この娘は、折れていない。
「なら、いいわ……。そこの
古志加が、古志加よりひと回り背の高い、若い
部屋には入らず、
「
大川さまの命により、これより藤売さまの護衛を務めます
衛士は若々しい声で言った。
「屋敷の中なのに?」
あたくしは下から思いきり
(そんなの息がつまるじゃない。)
「はい。」
衛士は微動だにしない。
清潔感のある、なかなか良い面構えの若者であった。
(護衛として良く目にしても、不快ではなさそう。)
「まあ、良いわ。」
あたくしはそれ以上ごねず、了承した。
* * *
話を聞かれないためだ。
「ちょっと、浄足とそこで遊ぶから。遠くには行かないから!」
と日佐留売に断りはいれておく。
茂みに浄足を引っ張りこみ、二人しゃがみこみ、あたりを伺ってから、
「いいか浄足。知恵を貸せ。」
と難隠人は浄足を真剣に見た。
「生半可なことじゃだめだ。
やるなら、ちゃんと結果をだせるところまでやらないと。
そのために、どうしたら良いか、知恵を絞れ。」
「はい。」
浄足が真っ赤な顔で頷き、
「兵とは
と喋りはじめる。
* * *
未の刻(午後1〜3時)
藤売は前触れなく、
「気晴らしをします。
と立ち上がった。
「えっ? これから外に……?」
と
「そうよ。……甘糟売。おまえは歩くのが遅いから留守。古志加。ついてきなさい。」
「はい。」
気晴らしは、何もムチで女官を打ち据えるだけではない。
さっさと部屋を出る。
「オ……オレは馬をひいてくる!」
慌てて衛士は飛んでいった。
もちろん衛士の帰りを待ったりしない。
どんどん歩き、
「あっ……、どうなされました。」
「どうも何も。あたくしは外にでるのです。」
「護衛につけた衛士がお側近くにいないようですね。
どうかこの、
と、先程の衛士より背の高い門番が、にっこりと笑って言った。
目が細い。全体も細長い。
(むさ苦しくはないわ……。良いでしょう。)
「許します。」
あたくしは、古志加、家令、背の高い衛士を引き連れて、上毛野君の屋敷を出た。
空が青い。良く晴れた。
さあ、
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330667027634738
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