第三章 山吹の衣
第一話 びっくりなお届け物。
二年の歳月が流れた。
女官部屋にいた古志加に、知り合いの
女官部屋に、男は入れない。
「三虎からの
ということは、この渡された若草色の麻の包みの中身は、衣なのだろう。
「はい。明日はこれを着て、
「知るか。」
「……だよねぇ?」
三虎はいちいち、下人に、命令の理由を説明したりしない。
女官部屋に古志加がもどり、若草色の包みを開けると、
「わあ。」
(えっ? これをあたしが着るの?)
古志加は、女官の衣か、
三虎からもらった
古志加はびっくりし、わらわら、まわりに集まってきていた女官達は、
「んまーっ! 衣の贈り物よ!」
「
「きゃ──────!」
と盛り上がった。
「えっ? えっ?」
古志加は、頭がうまく働かない。これはどういう事で、どう解釈すれば良いのだろう?
「これを着て、今夜、
「違うよ? 明日の朝、部屋に来いって言われた。」
「………はあ?」
「なんなの?」
「朝だったら、さ
男女が
「だから、違うんだよ。」
と言うが、顎がとがった、八重歯の
「あたし、ちょっと
三虎がまだ年若い古志加にちょっかいだしてきたら、すぐ日佐留売に言いつけるようにって言われてるんだから!」
と、びゅーん、と
「ええっ!」
(日佐留売、そんなことを言ってたの? なんだか恥ずかしいよぉー。)
福益売は間もなく帰ってきて、
「明日は、三虎の部屋まて、日佐留売が付き添ってくれます!」
と、にっこり笑った。
(え───!)
その夜は、なかなか寝つけなかった。
(いきなり郷の
まさか、この衣をあげるから、出ていけって追い出されるわけじゃないよね……?
弓の稽古で的を外してしまったのがマズかったか。
でも、あれは三虎に見られてるって、意識しすぎちゃっただけだ。
剣の稽古ならそこまでヘマはしないし、
どうにも不安で、寝つけなかったのだ。
翌朝、山吹色の鮮やかな衣を着ると、
「かわいい
全然、
と八重歯を見せる笑顔で言い、
「そんなことしなくて良いよぉ……。」
という古志加を無理やり、郷の
背中で一つ、丸く結び、頭に山吹のお揃いの
肩にふわりと、くるくる巻いた毛が乗った。
(ひぃ……。女官部屋を出たくない……。この姿を人に見られるのが恥ずかしい。)
古志加は両手を握りあわせ、その手をもじもじと揉んでしまう。
女官部屋に古志加を迎えに来た日佐留売は、おっとりと笑った。
「まあ、かわいいわね。さ、行きましょう。」
(かわいいだなんて! 素晴らしく美人な日佐留売に言われても、ひたすら恥ずかしいだけだよ。
……大丈夫だよね。
三虎に、この衣を着て、
古志加はいささか緊張しながら、日佐留売とともに三虎の部屋に行く。
三虎の部屋は、日佐留売の部屋や、女官の大部屋より狭い。
でも、一人で使ってるのだ。
あまり装飾品はなかったけど、スッキリ片付けられて、居心地は良さそうだった。
部屋の奥にズラーっと
部屋には、三虎と、
三虎が不思議そうに日佐留売を見た。
「あれ? 姉上?」
「ほほほ。古志加はまだ十四歳よ。せめて十六歳まで待ちなさい。」
「姉上! ひどい誤解です! これは仕事です!」
三虎は憤慨した。
がっしりした体格の荒弓が、頬骨のはった顔で明るく笑って、古志加を見た。
「へえ、かわいいじゃないか、古志加。」
ひょろりと細長い
「良く似合ってるよ。」
と細目をさらに細くして微笑み、若々しい子どもっぽさが抜けない花麻呂は、
「全然、いつもと違う。」
と目を丸くした。三虎は、
「………。」
なぜか無言。荒弓がしみじみと、
「ちゃんと
この間は、思いきり肩打って悪かったなぁ。」
と言ったので、古志加は困って、恥ずかしくなって、パッと日佐留売の後ろに隠れた。
「日佐留売ぇ……。
あたし無理……。」
と、小さい声で助けを求める。
「あなた達。からかわないの。」
日佐留売の冷たい声に、
「三虎、ちゃんと何か言ってあげて。」
「お前たち、あまり見るな。」
「そうじゃなくて、古志加に。」
(ええ? それはいいよ、日佐留売。)
古志加は日佐留売の背中で、真っ赤になってしまう。
「少し着飾ったくらいで甘えるな!
頭が空っぽなのか! 用があってその格好をさせたんだ。殺人者の釣りをしろ。出てこい!」
ピシャリと三虎に言われた。古志加は背を伸ばし、
「はいっ!」
と、日佐留売の背中から出た。日佐留売は、
「あなた……、そういう……。」
と、
「姉上。衛士見習いとしての仕事です。」
三虎はムスッとした顔で言い放つ。
日佐留売は物言いたげに三虎を見たが、
「あたしはもう行くわ。皆さま、たたら
と退去の挨拶をした。
「たたら濃き日をや。」
皆が言い、
「ありがとう、日佐留売。」
と古志加は続けてお礼を言った。
* * *
「古志加。花麻呂の隣に立て。」
と三虎が言うので、
「うん。」
と立った。倚子に座った三虎と、その横に立つ荒弓が、机を挟み、
「うーん。」
と考えこむ。
三虎が首をかしげたので、
「年は良いが……。」
と三虎。
「おまえら、並ぶと兄妹みたいだな。」
と荒弓。
思わず、古志加と花麻呂は顔を見合わせる。
たしかに、二人ともくるくる巻いてしまう髪はそっくりだ。
目もとも似てるといえば、似てる……? でも、
「兄妹じゃありません。」
花麻呂がハッキリ言う。古志加も頷く。
「わかってる。花麻呂、
花麻呂のかわりに薩人が隣に立つ。
薩人は背が三虎の次に高い。
二年前までは三虎より高かったが、三虎が追い越してしまった。
全体に細身で、顔も細ければ、目も細い。
いつもニコニコしていて腕も立つ。
信頼して任せられる衛士の一人だが、前に三虎に、
「お前は
と言われてた。
腕を組んだ三虎が、
「やはりこっちか……。」
荒弓が、ぽん、と手を叩き、
「じゃあ決まり。今日から二人は
「えっ?!」
驚いて棒立ちになった古志加の顔を、背が高い薩人が
「ふふっ。よろしくね古志加。」
「
フリをして二人で
それだけだ
無表情に三虎が言う。
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330662872845923
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます