第六話 妻と吾妹子と妹
「頑張ってるようだな。」
と、三虎は声をかけてくれた。無表情だが、優しい声音。
三虎の
「うん!」
と笑うと、三虎は
「オレの姉上は、すげぇだろ。このまま頑張れよ。次に来た時は、良い物持ってきてやるからな。」
と言ってくれて、本当に次に来たときは、くるみと、
くるみは、蜂蜜と
あの素晴らしい味のくるみ。
本当に嬉しくて、涙目になりながらお礼を言っていると、
「三虎……。あなた……。」
と、じーっと三虎を見るので、
「ちゃんと! あつかってます。姉上!」
と、なぜか早口で三虎は答えていた。
あたしはすぐ、日佐留売と
もったいない、と思いつつ、こうやって好きなだけ沢山食べるのも、胸が踊って楽しいものだ……。
* * *
女官部屋の皆とは、いろんな話をする。
親が女官で、
「あたしのおかげで、
と、悲しそうに、でもさばさばとした笑顔で教えてくれた。
* * *
福益売は、ある日は、
「大川さま付きの女官になりたかったわぁ。
あの美しいお顔を、もっと
と、うっとり言い、またある日は、
「あたしも、一度でいいから、誰か素敵な
と、かわいい八重歯を見せながら、大きく叫んだ。
あたしは、最初、
「
と
「
親も認めた、家同士のつながりでもあるわ。
跡取りも、妻が産んだ子の中から選ばれる。
で、
ピッ、と指を一本立てて、言う。
「
家同士のつながりは、ない。
妻以外の
恋が冷めれば男に捨てられるし、逆に妻となれる場合もある。
家や子に縛られないぶん、純粋な恋の炎が二人をつなぐ
で、男は、
ピッ、と二本めの指をたてて、
「
たいていは妻の一人ね。
でも、家同士のつながりとか、
たとえ妻にすることが叶わなくても、その
他に代わりはいない、お互い、たった一人きりの、
両手の平をひらひらと振り、ぱんと両手をあわせ、福益売は言った。
そして大声で、力強く、
「あたしも
と
他の皆も、きゃあきゃあ言いはじめる。
「本当に、
キャーキャー叫ぶことに夢中になった福益売のかわりに、いつも控えめな
あたしは、呆然としながら、
「本当に、知らなかった。」
とつぶやいた。下唇をかむ。
母刀自は妻で、親父は
もし、あたしが、どこかの金持ちに気に入られて、妻になれずとも、
でも、
なぜ?
……多分、教えてもらったら、あたしは訊くからだ。
母刀自は、親父の
親父は、母刀自の
と。
そしてそれは。
母刀自の答えられない問い。
答えたくない問いだからだ。
あたしの両目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「あっ……! 古志加が泣いてる!」
慌てて
「きゃあ! 泣かないで古志加!」
と福益売がすっ飛んてきて、あたしを、ぎゅっ、と抱きしめてくれた。
「うっ……、うっ……。」
あたしは泣きながら、福益売を抱きしめかえす。
あったかい。
柔らかい。
抱きしめてもらうの、あたし、本当に嬉しいんだよ。
「ありがとう、福益売……。」
福益売の柔らかさに、身を預けながら、
(母刀自、いつか、教えてくれるつもりだったんだよね?)
と心で語りかける。
あたしは、
もっと
そう、十一月の、実りの祭りのときにでも……。
まさか、こんなに早く、あたしの側からいなくなるなんて、思ってもみなかっただけだよね……?
「
教えてもらって、良かった。」
鼻をすすりながら言うと、福益売は体を離し、
「そうなの、そうなのよぉ──っ!」
と何度も頷いた。
女官は、使いや、主のお供でなければ、
早番、遅番の半日の休みは多いが、丸一日の休みはない。
ではあるが、婚姻を禁じられているわけではない。
この屋敷に出入りする商人が、
もしくは、ここは
もちろん、
その役人に偶然見初められて、妻となることも、あるそうだ。
家柄の良い上級女官や、女官をとりしきる
ほとんどが結婚できるそうだ。
ただ、下級の女官のほとんどは、おばあちゃんになって死ぬまで、女官として暮らす。
美しい
皆、それがわかってる。誰か素敵な
「恋してます、オレの
と言われることなんて、ほとんど夢のような話だと……。
(あたしも、あたしも……。)
心のなかに浮かぶ顔はあったが、それ以上は明確な言葉を与えず、古志加はそっと目を伏せる。
* * *
まとめ。
○
婚姻関係。一夫多妻制。親の承認要。
○
愛人関係。ただし現代のような卑下するニュアンスはない。親の承認不要。
○
妻、吾妹子、関係なく、たった一人の男と女。共寝した仲かどうかさえ関係ない。
親の承認不要。
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