第九話
ここに来て、一ヶ月も経った頃。
そろそろ、日々の仕事に余裕が出てきた。
あまりオレがしつこく言うので、
「ちょっとだけだぞ〜。」
と、相手してくれた。
右、
左、
右、
正面。
自分のできる限りの速さで打ち込む。
「おっ? おお。」
と、
もう一度、
右、
左、
右、
正面!
「てッ!」
しっかり正面に振り下ろした棒を受け止められ、すかさず頭を棒でパコンと打たれてしまった。
「ふむ、悪くないが、単純だぞ。」
オレは頭をさすりながら、
「クソ親父が、まず一つの流れをよく鍛えろ、って……。」
と顔をしかめて言うと、荒弓が、
「クソ親父とか言わないの。」
と呆れたように言った。
「はい。」
でも、本当にクソ親父なんだよ……。
「オレ、剣を教えて欲しい。もちろん、他の仕事さぼったりしない。稽古にちょっと、まぜてもらうだけでいい。お願い……。」
荒弓はニコニコして、
「稽古のときに、少しだけだぞ?」
と了承してくれた。
やった!
ここでの楽しみが増えた。
* * *
時々、美しい女官とすれ違う。
髪はつやつやで、ほんのり頬に
大豪族の屋敷というのは、すごいものだ。
女官全員、美人だもん……。
綺麗に咲いた花を見るように、遠くから眺めているのは、良いものだ……。
でももし、自分があの中に放り込まれたら。
(ねぇ、
心のなかで、母刀自に呼びかけ、オレはため息をつく。
もちろん、掃除の手はゆるめない。
* * *
「そう、驚きました。剣の振りが早い。そして、見た目とは裏腹に、荒々しい剣でした。
父親に教わったと本人は言ってましたが……。」
「そうか。」
「年は早いですが、稽古をつけるぐらいはしても良さそうです。
本人がやる気ですので。」
「ふむ。」
そこで三虎はちょっと口もとに笑みを作り、
「おまえに任せる。」
と言った。
「あ、三虎……!」
遠くから
その
「荒弓からきいたぞ。皆の稽古にまぜてもらえるってな。良かったな。」
「うん!」
「オレ、嬉しい……。楽しみ!」
と弾けるように笑った。
そのあと何故か、顔を皮肉げに歪め、
「親父に、剣は毎日振ってないと弱くなる、って言われたから、今は弱くなってると思うけど……。」
と生意気なことを言うので、スパンと頭をはたいてやった。
「おまえの親父と、
オレは明日、奈良へ
と言うと、
「えっ!」
「どこ行っちゃうの……。オレも連れてって……。」
と言った。
「それはできない。
三虎は冷たくハッキリ言ってやった。
泣いている。
やれやれ。
よく懐かれたものだ。
しょうがない。
しばらく、そのままで泣かせてやった。
最近の夜は、悪夢にうなされる回数は減っていた。
完全になくなったわけではないが、オレも、ずっと一緒にいてやれるわけではない。
乗り越えろ、
* * *
三虎が
「
もう半刻(1時間)になります。」
と耳打ちした。
(何やってるんだ、バカめ。)
と三虎は顔をしかめた。
三虎はため息をついて、畑の方に足をむけた。
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