第十話 伎楽、其の一
ここに来て、十日くらいしてから、
「もうすぐ
眠たくなるまで、遊んで良いからな、
と
「え……、オレも行って良いの?」
と聞き返してしまった。
「
「オレ……、オレ……。」
オレは戸惑い、うつむき、
もちろん、興味はあるけど、あまり、嬉しくない。
オレは、祭りに行ったことがない。
どんな風に過ごせば良いんだろう?
それより普段通りの仕事をして、皆の世話をしてるほうが、よっぽど気が楽だ。
「うん?」
と首をかしげ、
「別に、
ご馳走が腹いっぱい食べれるぞ。」
と、ニコニコしながら言ってくれた。
握り飯……。大きいの、三個食べれるかな?
「うん、ありがとう。」
オレはちょっと楽しみになり、笑顔でお礼を言うことができた。
* * *
時期が近づくと、
皆、祭りを心待ちにして、楽しそうに話す。
もちろん、
オレは、話を耳にするだけだ。
でも、皆の様子から、楽しいんだろうな、ということだけはわかる。
それなのに、クソ親父がオレと母刀自が祭りに行くのを許さなかったせいで、オレは祭りに行ったことがない。八歳のころ、
「行ってみたい。」
と口にしたことがある。酔った親父は、口から唾を飛ばし、
「けっ、色気づきやかって、バカが!」
「オレらみたいな
誰にも相手にされず終わりだ。」
「許さねえぞ、
「クソ親父!」
オレは舌を出し、逃げ出す。
そんな時、母刀自は、いつも悲しそうな顔でうつむいて、黙ってオレを見ていた。
……逃げ出すといっても、家から出ただけだ。
禁じられては、祭りには行けない。
オレは左腕をさすりながら、
「本当に、祭りに行っても楽しめないのかな。」
と一人つぶやく。
祭りの当日、いつも家にたむろしていたガラの悪い
(楽しめないのは、親父だけじゃないのかな……。)
そう思いつつ、祭りの当日も、三人で、いつものように家族で過ごすのだった。
でも、今年は、母刀自と二人で行けるはずだった。
──十一月になったら、実りの祭りに行きましょうね。
祭りは、本当に楽しいのよ。
母刀自はそう言って、嬉しそうに笑っていた。
でも、母刀自には、十一月は来なかった。
* * *
その夜。
「祭りが近い。良かったな。」
とオレを見て、全く無表情に言った。オレは、
「うん。」
と
「なんだ。楽しみじゃないのか。変なヤツ。」
と
「ううん、楽しみだよ。三虎は、一緒に祭りに行ってくれるの?」
と訊く。
「オレはずっと
三虎は冷たく言い放つ。
……きっと、一人で祭りに行くことになる。
オレは、一人で夜、寝たことがない。
母刀自が
「
オレが塞ぎこんでいるので、三虎が首をかしげて、左腕にそっと触れた。
「なんでそんな顔してるんだ?
祭りの話で、そんな顔をする
三虎が触れた左腕から
「親父が……。」
と言いかけ、がばっと三虎に抱きついて、言葉の続きを呑み込んだ。
「
三虎は戸惑いつつ、優しく声をかけてくれるが、
「なんでもない。祭りが楽しみ。」
オレは三虎の清潔な良い匂いを、すぅっと吸い込みながら、顔を隠したまま、そう言った。
親父の話なんてしたくない。
親父に禁じられたせいで、ただの一度も祭りに連れて行ってもらったことのない、変わり者の
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093080751476590
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます