第四話 行休 〜こうきゅう〜
その日の
バキバキッという大きな……木が壊れる音で起きた。
「誰だ! 出てけ!」
オレは大声で怒鳴ったが、
「ぐ!」
すごい力だ。
「郷長さまの屋敷に、
一晩たったら返してやるよ。」
(なんだって?! どういう事だ!)
足をばたつかせてると、母刀自の悲鳴がきこえ、悲鳴がくぐもった声になった。
「は、は、と……。」
苦しい息で母刀自のほうを見ると、もがく母刀自が大きな麻袋に頭から入れられているのが見えた。
(やめろ! やめろ!!)
オレはもがき、自分を釣り上げている
「イテェ!」
手の力が緩んだ。必死にもがき、
寝ワラを蹴散らし、母刀自に駆け寄ろうとし……。
ガァンと後ろから頭を殴られた。
頭に火花が散り、倒れ伏し、
(母刀自……!!)
気が遠くなった。
* * *
「
教えてもらったばかりの
月に照らされた夜。
寝静まった郷。
非常識な時間だとはわかってるけど。
「──どうしたの?」
中から
「助けて! 母刀自を!
ついさっき、郷長さまの家に借りてくって、
その後、あぁ……と苦い顔をした。
「一晩たったら家に返す、って言ってなかった?」
「言ってたよ、でも、でも……!」
「郷長さまの、悪い
「そんな! 助けて!」
「あたしにだって、どうにもできないわよ! 死にはしないから。ホラ、自分の家に帰って、朝まで待ってな!」
(そんな……。どうにもできないの……?
母刀自……。母刀自……!)
オレは頬を涙で
小さく小さくなって、座りこんだ。
夜風がガタガタ家をふるわせた。
一人は怖い……。
一人は怖い……。
(母刀自……。
早く帰って来て……。早く……。)
そのまま眠れず、十月の夜気にふるふると震えながら、夜明け近くに、ふっ、と眠りに落ちた。
───
母刀自の声が風にのって聞こえた気がして、オレは飛び起きた。
壊れたままの戸の外から、ドサッと人の気配がした。
もつれる足どりで朝の光が満ちる外にでると、二人の
戸の近くには、母刀自がごろりと仰向けに寝かされていた。
目をつむり、息をしていなかった。
首に酷い青あざがある。
(え……?)
あわてて駆け寄る。
触る。
温かい。
温かいけど……。
息をしていなかった。
* * *
狂ったように
「もう、いい加減に……。」
と、迷惑そうに戸を開けた
「助けて!
母刀自が帰ってきたけど、息をしてないの。でも、死にはしないって言ったじゃない。だから死んでない。死んでないから……助けて!」
「あんたおかしい……、おかしいよ!
もう来ないでくれ!」
と、戸を強く閉めてしまった。
尻もちをついたオレは、手についた土を払い、起き上がる。
(オレは、諦めない……。)
死にはしないよ、って言ってた。
死にはしないはずだ。
まだ体だって、温かい。
息が止まってるだけで、何か薬草とか、何か
死にはしないんだから。
だから誰か、誰か。
「助けて……!」
* * *
オレは諦めなかった。
郷のすみからすみまで、救いを求めて訪ね歩いた。
しかし皆、
「息をしてない。」
と言うと目をむいて、オレを追い払った。
おかしい、狂ってる、と口々に言われた。
それでも諦めない。
郷の……、ほとんどの家を訪ね終わってしまった。
「誰か、誰か、助けて……。」
と乾いた口で
つまづいた。
転び、倒れ。
……起き上がる体力がない。
雪の地面に倒れ伏しながら。
(まだ、何かあるはず、まだ、まだ……。)
まだ、郷長の屋敷に行ってない。
どうして今まで気がつかなかったんだろう。
そこが一番可能性があるではないか。
そうだ。行こう。
頭をぐっと上にあげ、
(あ……。)
景色がぐるっと回った。
そのまま気を失った。
* * *
※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます