第42話


「うぅ…怖いよ…」


「大丈夫だよ、榊原さん…私がいるから…」


「うぅ…谷川さん…」


夜。


浜辺の端の方で谷川と榊原が二人で寄り添って座っていた。


火の前に座りながら榊原は自らの体を縮こまらせて震えている。


昨日の記憶が蘇り、また浜田たちに呼び出しを受けるのではないかと恐れているのだ。


「もし浜田くんたちがまたきたら……二人で一緒に逃げよ?」


「ありがとう、谷川さん…心強いよ…」


震えて怯える榊原に、谷川は安心させるようにそういった。


「今日も…浜田くんたちは…国木田くんの死体を使って魚を集めたのかな…?」


二人の傍には先ほど食べた魚の骨が転がっていた。


昨日に引き続き、今日も浜田たちは女子たちが水分補給に行っている間に、たくさんの魚を捕まえていた。


今日は人数分の魚が捕獲されたため、食べられる人間が選別されることはなかった。


「どう、なんだろうね…多分そうだと思うけど…」


「私は国木田くんが死んだなんて信じられないよ…は、浜田くんたちが殺したってこと…?」


「おそらくは…」


実際に国木田が浜田たちに殺される瞬間を,谷川は目にしたわけではない。


だが浜田たちが国木田の死体を使って魚を集めるところは確実に見た。


だから、谷川は浜田たちが国木田を殺した犯人だと考えるのが妥当だと思っていた。


「食糧のためにクラスメイトを殺すなんて…信じられない…」


「そうだね…浜田くんは…この島に来て、タガが外れてしまってる…榊原さんのこともそうだし…」


「うぅ…あんな人だとは思わなかった…浜田くん…」


無理やり襲われた時のことを思い出したのか、榊原はぎゅっと自らの体を抱く。


「大丈夫だよ、榊原さん…大丈夫…ごめんね、嫌なこと思い出させちゃったね…」


「うぅ…」


また泣き出してしまった榊原を、谷川が慰めていた、その時だった。


キャァアアアアア…


「「…っ!?」」


夜の静けさを破るような甲高い悲鳴が聞こえた。


谷川と榊原ははっとなって周囲を見渡す。


「おい、今の…」


「聞こえたか…?」


「誰の声だ…?」


「女子の声だったよな…?」


「わからん、誰かまでは…」


二人の周りでも、声を聞いた生徒たちが、ざわつき、声の聞こえてきた森の方角を見つめている。


「まさか…」


谷川の脳裏に嫌な想像がよぎる。


「もしかして…」


榊原が辛そうに表情を歪めた。


また誰かが浜田たちの歯牙にかけられている。


二人は悲鳴を聞いてそんな想像をしたのだ。


「榊原さん、ちょっとここで待ってて」


「谷川さん…?」


「様子を見てくるから」


もし誰かが浜田たちに襲われ無理やりされているようなことがあれば助けなければならない。


そう思い、谷川は立ち上がって声の聞こえてきた方向へ向かって歩いて行った。

 


時刻は少し前に遡る。


「はー、トイレトイレ…」


夜の浜辺。


一人の女子生徒が立ち上がって森の方角へ向かって歩いていた。


一ノ瀬芽衣だ。


便意を催した彼女は、誰にも見られない森の中で用を足そうと思い、一人で森へと向かっていた。


「はぁー,トイレを外でしないといけないとか最悪。早く助けが来ないかなぁ…」


一ノ瀬はそんなことを呟きながら夜の森の中へ入っていく。


「まぁでも無事に浜田くんに気に入られることに成功したし、私なら大丈夫だよね」


ニヤリと狡猾な笑みが一瞬一ノ瀬の口元に浮

かぶ。


彼女は、浜田をリーダーの座から引き摺り下ろそうと提案してきた谷川を利用し、浜田に取り入ろうとした。


その企みは見事成功し、谷川の謀反を暴露することで彼女は浜田に気に入られ、魚を優先的に食べられる側のグループに入ることができた。


一ノ瀬は薄々谷川の主張が正しいのではないかと思っていた。


毎日毎日女子生徒がいなくなったタイミングで、男子たちが魚の捕獲に成功しているのはおかしい。


絶対に何かある。


そう思っていたのだが、しかしわかっていながらあえて谷川には味方しなかった。


彼女はとにかく自分が生き残ってさえいればそれでいいと考えていた。


だから、現状この無人島で一番権力を持っている浜田に取り入るためなら、谷川を犠牲にして裏切り者に仕立て上げても構わないと思ったのだ。


「谷川さんもバカだよねぇ…この無人島で生き残るにはもーちょい上手くやらなきゃダメだって。ふふ」


裏切る可能性を全く考えずに馬鹿正直に真実を自分に打ち明けてきた谷川を、一ノ瀬は小馬鹿にして笑う。


「っと、この辺でいいかな?」


やがて一ノ瀬は、森の中で足を止め、浜辺からの視界が遮られていることを確認してから、ズボンを下ろした。


もりもり、もり…


「ふぅぅうううう…」


そして森の中で、安心し切って野糞をする。


「みんなトイレとかどうしてんのかな?」


野糞をしながら一ノ瀬は、純粋な疑問としてそんなことを考えた。


やはり皆、現在の自分のようにタイミングを見つけてしているのだろうか。


この島に流れ着いてすでに3日以上が経過している。


流石に我慢しているなんてことはないはずなのだが…


ガサガサ…


「え…?」


しゃがんで野糞していた一ノ瀬は、急に背後の茂みが動いて思わず振り返る。


「な、何…?」


グルルルルル…


茂みの奥から低い唸り声が聞こえてきた。 


「ひぃ!?」


一ノ瀬は怯え、尻餅をついてしまう。


グルルルル…


低い唸り声と共に茂みの中から、二メートルを超える毛むくじゃらの何かが姿を現した。


「きゃぁあああああああ!?!?」


唸り声の主を目にした一ノ瀬は悲鳴をあげる。


逃げなくては。


頭ではそう理解していたが、恐怖で一ノ瀬は体が動かなかった。


「いやっ、いやっ…来ないで…っ」


震え声でそう懇願するが、巨体は牙から涎を滴らせながらゆっくりと一ノ瀬に近づいた。


そして…


ブォン…


巨椀が風を切る。


「あぐっ…」


一ノ瀬の首が切り裂かれ、鮮血がぼたぼたと垂れた。


「…っ…ぉ…ぁ…」


とめどなく溢れる鮮血に、一ノ瀬が首の傷口を押さえて倒れ込む。


毛むくじゃらの巨体は、地面に這いつくばった一ノ瀬に容赦なく追撃を加えた。







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無人島でクラス追放された件〜昔蓄えたサバイバル知識で一人でも余裕で生き延びます〜え?毒キノコが見分けられない?罠が作れない?知らねーよ自分たちでなんとかしろ〜 taki @taki210

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