第39話


翌日。


「そろそろ女子たちは水分休憩に行ってきていいよ。その間、僕たちは魚をとっておくから」


「「「はぁーい」」」


これまで通り、浜田たち男子は、女子たちが水分休憩に行っている間に血を使って魚を集め、取ろうとしていた。


「さて、女子たちは言ったね」


女子たちが水分補給へ向かったのを確認した浜田が、近くにいた取り巻きの男子たちに声をかける。


「おいお前たち。浜辺と森の境目付近を数人で見張ってこい」


「浜田?」


「俺たちが?」


「なんのために?」


「また女子の誰かに僕たちのしていることを見られたら厄介だ。わかるだろう」


「お、おう」


「そうだな…」


「わかった」


「行ってくる」


足早に走って全員女子たちが水休憩にいたことを確認する取り巻きの男子たち。


「さて…僕たちは…」


浜田はその間に、昨日同様国木田の死体を使って魚取りをしようと、近くに残った取り巻きの一人に声をかける。


「おい、今のうちに魚を取るよ。国木田くんの死体はどこかな?」


「こっちだ。ついてきてくれ」


「わかった…ええと、君と君、それから君も。僕たちについてこい」


「「お、おう…」」


「「了解だ、浜田…」」


浜田は国木田の死体を運ぶための男子を選出し、昨日国木田の死体を隠した場所までみんなで向かう。


「あれ?」


「うっ…」


「これは…」


果たして国木田の死体の隠し場所に来てみれば、そこには『何か』に食い荒らされ、原型を留めていない国木田の残骸が残っていた。


みるも無惨な状況を見た浜田以外の男子生徒たちが顔を顰め、浜田は首を傾げる。


「どういうことだい、これは」


浜田は周りを見渡した。


特に気配は感じない。


「夜のうちに…何かがここにきて国木田くんの死体を食べた……そういうことかな?」


鳥の群れだろうか。


いや、そんなちいさな動物にここまで人の死体をバラバラにできるとは思えない。


おそらくもっと大きな生物が、この無人島のどこかに潜んでいる。


「ど、どうするんだ浜田…」


「な、何かに喰われたのか…?」


「冗談だろ…?お、狼でもいるってのかよ…?」


「だ、誰か人間がやったって可能性も…」


「そ、それは流石に…」


あれこれ推測して怖がっている男子たちに、浜田はいった。


「君たち。ここで見たことは内密にしてくれないかな?」


「え?」


「いや、それは…」


「一応男子だけでも報告した方がいいんじゃ…」


「ん?僕の命令に逆らって輪を乱すの…?」


「「「…っ」」」


浜田が人睨みきかすと、途端に黙りこくる男子生徒たち。


彼らは何か自分たちの生命を脅かす脅威がこの島にいるのなら、それはクラス全体で共有した方がいいと思ったのだが、浜田に逆らうことはできない。


「わかったかな?秘密にできるかい?」


「わ、わかったよ浜田…」


「誰にも言わないよ…」


「うん、頼んだよ」


一方で浜田は、このことがクラス中に知れ渡れば、生徒たちは混乱し、統率が効かなくなると思っていた。


だから、ギリギリまでこの事実は秘匿しておこうとそう考えたのだった。


「しかし困ったな…これじゃあ国木田くんの死体を使って魚を集められない…誰か……新しい協力者が必要になるね」


「「「…っ」」」


浜田のそんな言葉に、その場にいた男子生徒たちがサッと目を伏せた。





浜田たち一行が食い荒らされた国木田の死体を確認していた一方その頃。


谷川は他の女子生徒と共に水分補給へとやってきていた。


「谷川さんは最後ね」


「一度谷川さんは裏切ったから一番最後に飲んでね」


「追放されないだけありがたく思ってね」


「…わかってるよ」


女子たちからハブられて孤立している谷川は、少し離れた場所で、女子たち全員が水分休憩が終わるのを待っていた。


「ん?あれは…?」


谷川はふと、自分と同じように女子たちの輪から少し離れたところで、座って膝を抱えている女子生徒を見つけた。


「榊原さん…?」


谷川は首を傾げる。


榊原美久は、クラスにおいてかなり可愛いと言われていた女子だ。


彩音さえいなければ、確実にクラス一の美少女だっただろう。


そんなクラスの中心人物の一人だった榊原が、なぜか今は女子たちの輪から外れて、一人で膝を抱えてうずくまっている。


何かあったのだろうか。


谷川は、俯き、泣きそうな表情を浮かべている榊原に近づいていった。


「榊原さん?」


「…?あ、谷川さん…」


裏切り者が話しかけないで。


私まで仲間と思われたらどうするの?


そう拒絶されることも覚悟していた谷川だったが、谷川の顔を見た榊原は、目を逸らして俯いてしまった。


「どうしたの?」


「…」


「なんかあったの?」


「…」


「水分補給は大丈夫なの…?喉が乾いてなくても水は飲んでおいた方がいいと思うんだけど…」


「わ、私は…」


「え、榊原さん…!?」


顔を上げた榊原の目尻には涙が溜まっていた。


谷川は榊原の身に何かあったと瞬時に判断し、彼女の側にしゃがみ込んだ。








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