第40話


「榊原さん…?どうしたの?」


「…」


「何かあったの…」


「…」


「私でよければ力になるよ…?迷惑なら言って。すぐにいなくなるから…」


「…っ」


ぎゅっと唇を噛み締める榊原。


その目尻から涙が溢れる。


「さ、榊原さん…?大丈夫…?」


今までに見たことがないほどに弱々しい榊原に、谷川は戸惑う。


榊原が、泣きながらポツリポツリと語り出す。


「ごめんな、さい…谷川さん…」


「…?」


「谷川さんが言っていたこと…本当、だったかも知れない…」


「え…」


「私昨日…浜田くんに呼び出されて…それで、それで…」


「榊原さん…!?」


ポロポロと泣き出す榊原。


谷川は驚きつつも、榊原の涙を拭って背中をさすってやる。


「何があったのか教えて?一人で抱え込むより、話した方が楽になるよ」


しばらくして落ち着いたらしい榊原が、泣いている理由を谷川に口にした。


「昨日、私、夜に浜田くんたちに呼び出されて…そこで犯されたの」


「へ…?」


「従わないと、魚を上げないって…クラスで孤立させて追放するって…脅されて…」


「嘘でしょ…?」


「本当…私、声も上げられなくて…だから、だから…」


その時のことを思い出したのか、再び泣き出してしまう榊原。


谷川は、あまりの衝撃の告白に思わず唖然としてしまう。


「だから…あんなことするくらいだから…谷川さんの話も…本当なんじゃないかって…国木田くんを殺して…その死体で魚を集めたって…」


「…っ」


「うぅ…」


榊原はそう言ってうずくまってまた泣き出し

てしまった。


谷川はしばらく呆気に取られてそんな榊原を見守ることしかできなかった。




「ねぇ、谷川さん…私、これからどうしたらいい…?」


しばらくして、涙が枯れたのか、落ち着いた榊原が、腫れた目を谷川に向けた。


助けを求める小動物のような、弱々しい目で谷川を見てくる。


谷川はそんな榊原を見捨てることができなかった。


むしろこれは二人にとって好機だと思った。


「大丈夫、榊原さん。安心して。私は榊原さんの味方だから」


谷川はまずそう言って榊原を安心させなければならないと思った。


少し残酷なことだが、今の弱っている状態の榊原に少し優しい言葉をかけてやれば仲間に引き込めると思ったのだ。


浜田に気に入られている容姿の整った女子グループに所属している榊原。


そんな彼女を仲間に引き込めば、それは大きな前進と言えるだろう。


「谷川さん…?」


「二人で協力していこう?私、このこと絶対に誰にも言わないから」


「う、うん…言わないで…私、口止めされてるのに…本当のこと言ったのバレたら…また浜田くんたちに…」


「言わないよ。絶対に言わない。私が信用できない?」


谷川は真剣な表情で榊原を見た。


榊原が潤んだ瞳で頷いた。


「信用できる。谷川さんなら」


「…うん、ありがとう」


「谷川さんは……は、浜田くんによるクラスの支配を終わらせようとしているんだよね…?」


「そうだね。今の浜田くんはもうタガか外れてる。私たちにとって害でしかない。だから……リーダーの座から引き摺り下ろさないと…」


「私も谷川さんに協力したい…浜田くんに復讐がしたい…出来ることはなんでもするよ…」


少し表情に影を落とし、榊原がそういった。


どうやら榊原の浜田に対する復讐心は、谷川が思ったよりもずっと強いようだった。


“榊原さんが一人で暴走しないように見張っておかないと”


そんなことを思いながらも、谷川は表面上にこやかな笑みを作る。


「ありがとう、榊原さん。すごく頼もしいよ二人で頑張っていこう?」


「うん…よろしく、谷川さん」


谷川の手をとって少し暗い笑みを浮かべる榊原。


かくしてクラスで孤立した谷川は、信用のできる協力者を得ることが出来たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る