第34話
「やばい…やばいよ…っ…やっぱり彩音ちゃんの言ってたことは本当だったんだ…」
一人女子の集団を抜けて浜辺に戻った谷川は、青ざめた表情で急いで森の中へと引き返していた。
谷川は見てしまったのだ。
男子たちが、国木田の死体を使って魚を集めているところを。
「国木田くんは死んでたんだ……男子たちに殺されたんだ…っ…」
やはり彩音の言っていたことは本当だったのだ。
男子たちは魚を集めるために国木田をリンチし、傷つけてしまった。
国木田の直接の死因はわからないが、きっと男子の中の誰かが殺したのだろう。
そしてそのことを、彼らは女子たちに隠そうとしている。
「伝えなきゃ…みんなに…」
水飲み場へと向かって足を早める谷川。
彼女は一刻も早く、この事実を女子たちに知らせなくてはならないと考えていた。
「でも…ちょっと待って…」
だが、谷川の歩調はだんだんと遅くなる。
「みんな,信じてくれるかな…?」
女子たちがいる水飲み場が近づいてくるに従って、谷川は不安になってきた。
自分が彩音の二の舞にならないかと思ったのだ。
浜辺で見たことをそのまま打ち明けても、女子たちが果たして信じてくれるかはわからない。
もしかしたら誰も谷川の言葉を信用せずに、彩音と同じ結末を辿ることになるかもしれない。
「味方を作らないと…」
この事実を暴露するよりも、まず最初にやるべきは味方を作ることだと谷川は思った。
誰か信用できる人にこの事実を打ち明ける。
その後、少しずつ女子たちの間に事実を浸透させていく。
そうやって根回しをしなくては、浜田を権力の座から引き摺り下ろすことは出来ない。
「あれ?谷川さん?」
「どこに行ってたの?」
「あー、ちょっとね…」
水飲み場までやってきた谷川は、どこに行ってたのかを尋ねてきた女子に笑って誤魔化し、水分休憩をとるふりをしながら周りを見回した。
「一番信用できる人…私の言葉を信じてくれそうな人…」
谷川は自分の言葉を信じてくれそうな女子生徒を探す。
「一ノ瀬さんなら…」
そして選んだのが一ノ瀬芽衣という生徒だった。
一ノ瀬芽衣はバスケ部に所属する運動神経抜群の生徒で、クラスの女子からの信頼もかなり厚い。
谷川は一ノ瀬の連絡先を知っており、交流もある。
谷川は、一ノ瀬なら自分の言葉を信じてくれるのではと思ったのだ。
容姿はあまり整っておらず、浜田に選ばれた女子ではない点も、一ノ瀬を選んだ理由だった。
浜田に選ばれた女子は、浜田のことを盲目的に信じている節があるからだ。
「ねぇ、一ノ瀬さん…ちょっと話があるんだけど」
「何?谷川」
タイミングを見計らって、谷川は一ノ瀬に話しかけた。
「えっとね…今から言うことは二人だけの秘密にして欲しいんだけど…」
谷川はそう言って、一ノ瀬に浜辺で見たことを打ち明けた。
一ノ瀬は、谷川の話しを不気味なほど表情を変えずに黙って聞いていた。
「信じられないかもしれないけど…でも私確かにみたの」
「そっか」
一ノ瀬の反応は案外素っ気ないものだった。
谷川はおや、と思ったが、しかし打ち明けてしまった以上、一ノ瀬を仲間に引き入れるしか方法はなかった。
「みんなに言っても簡単には信じてもらえないと思って……一ノ瀬さん。浜田くんの圧政を終わらせるために、協力して欲しいんだ」
谷川がそう言って一ノ瀬に頭を下げる。
「いいよ、協力してあげる」
意外なほどあっさりと一ノ瀬は谷川の申し出を受け入れた。
谷川の表情に安堵の色が広がる。
「よかった…ありがとう、一ノ瀬さん」
「えっと……確認なんだけど、この話はみんなにしちゃダメってこと?」
「うん…暴露はしないで…少しずつ広めてほしいの。一ノ瀬さんが信用できると思った人に」
「そうやって仲間を少しずつ増やすわけだ」
「そう。お願いできるかな?」
「いいよ。私も浜田をよく思ってるわけじゃないから。協力する」
「ありがとう一ノ瀬さん…!」
谷川は少し身軽になったような感じがした。
これで仲間が増えた。
この重荷を一人で抱える必要がなくなったのだ。
「二人で、どうやって浜田くんに対抗していくか、考えていこう?」
「ああ、うん。そうだね」
谷川は、一瞬一ノ瀬の目が蛇のように狡猾に細まったのを見逃していた。
女子たちが浜辺に戻ってみると、今日もそこには捉えられた魚が集めてあった。
その数、全部で17匹。
クラスの半数にギリギリ届かないといった数だった。
「わー、すごい…!」
「今日も魚取れたんだねー!」
「男子たちありがとー!」
女子たちは、特に魚の捕獲の方法については疑問を持たずに、呑気に感謝を述べている。
一方で、どのようにして魚が捕まえられたかを知っている男子たちは、女子たちに感謝されても微妙な反応だ。
(国木田くんの死体はどこに行ったんだろ…?)
谷川は周囲を見渡す。
国木田の死体は近くにはないようだった。
きっと女子たちが戻ってくるまでに、どこかに隠したのだろうと思った。
「みんな、今日もなんとか魚を捕まえることができたよ。でも残念ながら、昨日と違って今日は人数分と行かなかったんだ」
浜田がクラスを見渡してそういった。
「と言うわけで、前回同様、魚を食べられる人を選別するよ」
そう言った浜田が、またしても魚を食べられる生徒を選び出す。
結局その人選は、ほぼ前回と同じで、容姿の整った男女が選ばれた。
「それから谷川さん、君もだね」
「え…?」
だが前回と少し違ったのは、谷川が選ばれたことだった。
どうして自分が?
そう疑問を持ったが、谷川はすぐに原因に行き着いた。
(そっか…今日は彩音ちゃんがいないから…)
前回選ばれた彩音が今はいない。
だから残された生徒の中ではまだ容姿が整っている方の自分が選ばれたのだろう。
(彩音ちゃん…大丈夫かな?まさか国木田みたいに殺されたりしてないよね…?)
谷川は姿の見えない彩音が殺されてしまったのではないかと心配するが、現時点では身を案じることしかできなかった。
「よし、今回魚を食べられるのは今選んだ人たちかな」
「「「「よっしゃ!!」」」」
「「「「やったぁ!!」」」」
「「「浜田くんありがとう!!」」」
選ばれた生徒たちは浜田に感謝を述べ…
「「「マジかよ…」」」
「「「またこの選び方…」」」
選ばれなかった生徒たちは一気に落ち込む。
「選ばれなかった人は、今日は申し訳ないけど、海藻とかキノコで凌いでほしい。明日はきっと全員分の魚が取れると思うから我慢してね。あ、それから、リーダーの僕により貢献してくれた生徒は次から魚を優先的に回すからね。頑張ってね。それじゃあ、解散…
「…あ、浜田くん。ちょっと待って」
「ん?何かな?一ノ瀬さん」
浜田がクラスを解散させようとしたところで、谷川の隣の一ノ瀬が浜田に声をかけた。
「浜田くんに伝えなきゃいけないこと、あるんだけど」
「なんだい?」
「こいつ」
一ノ瀬が隣の谷川を指差していった。
「裏切り者だよ。浜田くんが国木田くんを殺したって私に嘘ついてきた」
〜あとがき〜
新作の
『アグリー・フェイス〜事故で顔が醜くなり、彼女に捨てられた俺は、十年来の幼馴染に拾われる〜』
が連載中です。
こちらの方もぜひよろしくお願いします。
リンク↓
https://kakuyomu.jp/works/16817330651153296418
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