第35話


「へぇ、それは本当かい?一ノ瀬さん」


「一ノ瀬さん!?」


谷川は絶句して一ノ瀬を見る。


一ノ瀬が谷川を蔑むように見ながら言った。


「本当本当。私を仲間に誘ってきた。一緒に浜田くんが国木田くんを殺したことを少しずつ広めて浜田くんをクラスから追い出そうって」


「なるほど…それはよくないねぇ、谷川さん」


「…っ」


裏切られた。


頼る人物を間違えた。


そう気づいたが、もう遅かった。


浜田がニヤニヤとしながら谷川に近づいてくる。


「君にはがっかりだよ谷川さん。せっかく目をかけてあげたのに」


「…彩音ちゃんをどこにやったの?浜田くんなら知ってるでしょ?」


「彩音さん?さあね、知らないよ」


「嘘だ…あなたなら知ってるはず…!彩音ちゃんがどこに行ったのか…国木田くんがなんでここにいないのか…!!みんなにちゃんと説明してよ!このクラスのリーダーなんでしょ!?」


「ああ、うるさいなぁ…まったくもう…」


浜田が少しイラついたように頭をガシガシとかいた。


「みんな、谷川さんは嘘をついている。一ノ瀬さんが、谷川さんの裏切りを告発してくれたんだ。きっと島崎さんに影響されて僕を裏切ろうとしたんだと思う」


「谷川さんが…?」


「島崎さんに続いて谷川さんまで…?」


「そういやここ二日ぐらい、あの二人一緒にいたよね…」


「島崎さんに影響されて谷川さんまで浜田くんを追い出そうとしたってこと…?」


「谷川さん最低だよ。味方だと思ってたのに」


クラスメイトたち……主に女子たちから非難の声が飛ぶ。


「ねぇ、男子たち…!あんたたちは知ってるでしょ!?私の言っていることが正しいって…島崎さんの告発が正しいって…知ってるでしょ!?どうして黙ってるの!?」


「「「…」」」


谷川の必死の訴えに、男子たちは何も言わずに口を閉ざす。


ここで谷川の味方をしたら、裏切り者のレッテルを貼られて、立場が悪くなるのは目に見えているからだ。


「おいおい、何言ってんだ?谷川」


「お前どうしちまったんだ?」


「せっかく浜田に魚食べる許可もらったの

に、恩を仇で返すのかよ?」


浜田の取り巻きの男子たちが、谷川を糾弾する。


「誰か…信じてよ…」


谷川は周囲を見渡して助けを求めるが、谷川の味方をするものは誰一人としていなかった。


「谷川さん。君にはがっかりだ」


浜田がこれみよがしに肩を落としていった。


「君みたいな裏切り者に魚をあげるわけにはいかないよね。一ノ瀬さん」


「なに?」


「谷川さんの魚は君が食べるんだ。重要な告発をしてくれたからね。君のおかげでクラスの分裂の危機が未然に防げたよ」


「本当に?ありがとう、浜田くん」


一ノ瀬が浜田に礼をいい、それからチラリと谷川を見ていった。


「谷川が嘘の情報を広めようとしていたから、絶対に浜田くんに報告しないとって思ったんだ。役に立てたようでよかった」


自己利益のためにあっさりと自分を裏切った一ノ瀬に、谷川は何も言えず絶句したまま立ち尽くすのだった。

 



「よし、それじゃあ今後の方針も決まったことだし、まずは家を3人分に拡張するか」


今後の方針を話し合った俺と彩音、佐藤の3人は、早速行動を開始することにした。


彩音の谷川を助けに行きたいという願いを俺は出来る限り叶えてやりたい。


それは、彩音をすぐに助けに行けなかったことへのお詫びも兼ねてのことだ。


だが、すぐに谷川を助けにいくのは現実的に無理だ。


まずは家を拡張したり、3人分の食料を安定的に確保出来るようにしたりと、準備をしなくてはならない。


手始めに俺は、今ある家を彩音が入れるように3人分に拡張することにした。


「佐藤。悪いが木材を集めてきてくれないか?俺と彩音で組み立てる」


「私が?」


「ああ」


「その間、佐久間くんと島崎さんが二人で家を作るの?」


「ああ、そうだ。頼めるか?」


「私と翔ちゃんで家を作るんだね…頑張る…!」


「それだったら、私と佐久間くんが家を作った方が良くないかな?」


「え?」


「ん?」


「ほら、私、佐久間くんが家を私が入れるように拡張する作業、見てたから…そっちの方が手伝えること多いかなって思って。二人で組み立てやった方が効率いいよね。木材集めは島崎さんがやった方が効率がいいと思う」


「た、確かに…?」


佐藤の提案に俺は戸惑う。


いや、筋は通ってる。


通ってるんだが……ちょっと有無を言わせぬ雰囲気があるというか、語気が強いのはなんでなんだ…?


いや、俺の気のせいか?


「え、えっと……私はどうすれば…?」


彩音が俺と佐藤を見て戸惑っている。


「彩音、悪いんだが……佐藤のいうようにお前に木材集めを任せていいか?」


「え、私が…?」


「ああ。大きさはこのぐらいだ。頼めるか?」


「えっと…」


彩音は俺と佐藤を何度か交互に見た後に頷いた。


「わ、わかった…!その方が効率がいいんだもんね?私が木材集めるね…」


「よろしく頼む。あんまり離れるなよ…?迷ったら大変だ。近くにあるやつでいいから」


「りょ、了解です」


彩音がそう言って森の中に消えていった。


「佐久間くん、二人で組み立てしよっか」


「お、おう…」


そういうわけで俺は佐藤と二人で組み立てをやることになった。

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