第31話


「彩音…それってマジなのか…?」


「嘘…私たちがいなくなった後にそんなことが…?」


あまりに壮絶すぎる彩音の話に、翔太と佐藤の二人はしばらく呆然とする。


彩音が暗い表情のまま、頷いた。


「信じられないと思う…実際に経験した私も信じられない…でも、全部本当のことだよ」


大体半時間ほどかけて、彩音は翔太や佐藤がいなくなった後浜辺で起こったことを詳しく語って聞かせたのだ。


自分で話していて本当に嘘のような話なのだが、全て現実に起こったことだ。


「国木田が死んだ…?」


「浜田くんたちが殺したの…?」


「うん…私を助けようとして…死んじゃった…」


クラスメイトの死。


しかも同じクラスメイトたちの手によってもたらされた死。


翔太も佐藤も、浜田とその取り巻きたちが何の迷いもなく同級生を殺めたという話が到底信じられなかった。


「流石に浜田でも…いや、あいつならやりうるか…」


「私たちはこんな目に合わせた浜田くんならやりかねないよ…」


聞いた当初は信じられないような話だったが、しかし実際に翔太を陥れて追放し、毒味のために佐藤を犠牲にしたあの浜田ならやりかねないと二人は思い始めた。


「あ、彩音…お前、浜田に襲われかけたって…そ、その…大丈夫だったのか?」


「う、うん…なんとか…国木田くんのおかげで逃げられたの…だから私は、まだ、大丈夫だよ?」


「…っ…マジですまない…俺がもっと早く助けにいっていれば…」


見積もりが甘かったと翔太は反省した。


浜田のタガがまさかここまで外れているとは流石に予想外だったのだ。


まさか同級生を犯し、殺そうとするような奴だったとは、追放された翔太でさえも思わなかったのだ。


「ううん、大丈夫だよ。私こそごめんね…翔ちゃんが追放される時、何もしてあげられなかった…生きててくれて、本当によかった…」


目尻に涙を溜めた彩音が、翔太にそっとよって抱きしめる。


「俺もお前が無事でよかった。助けにいってやれなくて悪かったな」


翔太もそんな彩音を抱き留める。


「…」


翔太と彩音が再会を喜び合う中、佐藤がじっと二人を見つめていた。


どこか羨むような、少し暗い影の宿ったその視線に二人が気づくことはなかった。





「それで…これからどうするの?」


情報交換を終えた3人は、これからのことについて話し合う段階に移っていた。


浜辺で起こったこと全てを打ち明けた彩音が,期待するように翔太を見る。


「ええと,そうだな」


仕切り直すように居住まいを正した翔太が、一つ一つ情報を整理しながら、これからの方針について語っていく。


「まず……現在俺たちの元には3人が生活していけるだけの生活基盤がある」


「そうだね」


「そうなの!?」


いきなり驚く彩音。


翔太が少し得意げに頷いた。


「雨風凌ぐための家、動物を捕まえるための罠、水分補給のための水場、そして釣りをするための道具もある。これだけあれば、しばらくは生きていくのには困らないだろう」


「す、すごい…」


彩音がキラキラした目で翔太を見る。


「ま、まぁな」


照れくさそうに頭をかく翔太。


彩音は不思議そうに首を傾げる。


「翔ちゃんいつの間にそんなに逞しく……あ、そういえば翔ちゃん…昔変なノートに一生懸命何か書いてたりしたよね…いろんな調べ物したり…もしかしてその時の…」


「ちょ、彩音!?」


「島崎さんそれ以上は…」


翔太の黒歴史に踏み込みかけた彩音に翔太が焦り、察した佐藤が彩音を止める。


「え、なになに?私何かまずいこと言った…?」


「ま、まずいというか…俺の精神衛生上それ以上は勘弁してほしいというか…」


「今は佐久間くんに一通りこれからの方針を話してもらお?ね?」


「あ、うん…話の腰折っちゃってごめん…」


「べ、別にいいぞ…」


翔太は少しの間明後日の方向を向いて体の奥から湧き上がってきた羞恥心をなんとか逃し、それから「ごほんごほん」と咳払いして話を再開する。


「と、とにかくだな…生活基盤はここにある以上、生き延びるのはそう難しくないってことだ。自力で脱出は出来ないが、助けが来るまで、この3人でなんとか生き残ることは可能だと思う」


「そうだね」


「3人で…」


彩音が何か言いたげにそう呟いた。


「彩音?」


何かを迷っているような彩音の様子を感じ取った翔太が、水を向ける。


彩音が申し訳なさそうに翔太に言った。


「翔ちゃん…わがままなのはわかってる…生き残るためにはあんまり人数増やさない方がいいのも理解してる…けど…」


「助けたい人がいる…そうだな?」


彩音の言わんとすることを察して翔太が先回りをした。


彩音が心苦しげに頷いた。


「一人…一人だけ助けたい人がいるの…私がクラスで孤立した時、味方になってくれたから」


「ああ、さっき話してた……ええと、谷川、だっけか?」


「うん…谷川淳子…淳子ちゃんを助けたいの…だめ、かな…?」


出来ることなら淳子とともに翔太の元へいきたかったのだが、それが叶わなかった。


だが彩音には淳子をこのまま見捨てることが出来なかった。


彩音が浜田の策略にハマり、嘘つきとして吊し上げられた時に唯一味方してくれたのが淳子だったのだ。


こうなった以上クラスメイト全員を助けることができないのは彩音もわかっている。


片っ端から手を差し伸べていては、食料や寝床の確保もままならなくなるだろう。


それならせめて、淳子だけでも助けたいと思ったのだ。


「わかった。あと二、三人ぐらいなら、ここで受け入れられると思う。すぐには無理だが、谷川を助ける手立てをこれから考えていこう」


「ありがとう、翔ちゃん」


自分のわがままを聞き入れてくれた翔太に、彩音は感謝を述べるのだった。


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