第27話


「あ、れ…?」


気づけば地面が目の前にあり、国木田は混乱する。


全身を、束の間の浮遊感が包み込んでいた。


「へぶぅ!?」


だがその直後、鈍い音と共に頭部を衝撃が襲った。


石を右手に持って浜田めがけて突っ込んだ国木田は……その足の怪我ゆえに鈍い動きを浜田の取り巻きの一人に簡単に捉えられ、足払いをかけられていた。


国木田はあっけなくバランスを崩し、砂浜に顔面から突っ込んだのだ。


「あ、れぇ…?」


未だ何をされたのかよくわかっていない国木田が、砂だらけの顔を上げる。


そこには、小馬鹿にしたような表情のは浜田がいて、這いつくばる国木田を見下ろしていた。


「呆気ないね」


「あっ…あ…」


国木田は咄嗟に取り落とした石に手を伸ばす。


「ダメだよ」


「…っ!?」


だが石に伸びたその手を浜田に踏まれてしまう。


「僕を殺そうとするような手はいらないよね」


「いぎぃいいいいいいい!?!?」


グリグリ、と。


浜田は体重を乗せて国木田の手を踏みつけた。


ボキボキと嫌な音が、国木田の手から鳴る。


「ふん」


「あっ…ああっ…」


しばらくして浜田は鼻息を吐いて、国木田の手から足を退ける。


「あああっ…手がぁああああ!!!なんでぇええええ!?!?」


骨が折れてぐしゃぐしゃになった自分の手を見て国木田が絶叫する。


「死ねや国木田ぁ」


「ごふっ!?」


そんな国木田の顔面に取り巻きの一人の蹴りがクリーンヒットする。


国木田は白目を剥いて仰向けに倒れた。


「もう殺していいよ。そんな状態で生かしておいても足手纏いだ」


浜田が無慈悲にそう命令した。


「だめぇえええ!!やめてぇえええ!!」


悲鳴を上げ、やめさせようとする彩音の努力も虚しく、国木田は浜田の取り巻きたちによってリンチされる。


バキ、ボカ、と鈍い音が幾度となく響き、その度にすでに無抵抗となっている国木田の体がビクビクと痙攣した。


「もういいよ」


浜田のそんな言葉でようやくリンチが止んだ時には、国木田はもう動かなくなっていた。


「どうなった?」


浜田が確認するように顎でしゃくる。


「おい、国木田」


「おら、死んだふりか?」


取り巻きたちが国木田を蹴り飛ばす。


国木田はだらんと脱力したまま動かなくなっていた。


その目は虚で、焦点があっていない。


「動かなくなっちまった」


「死んだみたいだ」


「浜田。こいつ死んだぞ?」


取り巻きの男子たちが国木田の死体をけって、完全に絶命したことを確認する。


「そっか」


浜田は特になんの感慨もなく言った。


「僕を殺そうとしたんだから、死んで当然だよね」


「…嘘でしょ」


彩音は目の前で起きたことが信じられなかった。


初めて人の死を…人が殺される瞬間を目の当たりにして理解が追いつかない。


「嘘でしょ…?国木田君…?」


国木田のところまで這いずって、その体を揺らす。


だが国木田はすでに冷たくなりかけていた。


首筋に手を当ててみても、なんの脈動も感じられない。


「国木田くん…?ねぇ、ねぇってば…」


「無駄だよ島崎さん。国木田君は死んだんだ」


「…っ」


「死んで当然の人間だ。僕を殺そうとしたん

だからね」


「そんな…」


「これは正当防衛ってやつだよ。そうだよね?君たち?」


浜田が取り巻きたちを仰ぐ。


「そうだ」


「これは仕方のないことだった」


「先に襲ってきたこいつが悪い」


「俺たちは正当防衛をしたまでだ。死んだのは国木田の自業自得だ」


少しの罪悪感も感じていないような表情で、そんなことを言う浜田とその取り巻きたちに、彩音は呆然とする。


「あ、悪魔…」


ポツリとそんな言葉が口から漏れた。


「ははは。面白いこと言うね」


浜田がケラケラと笑う。


「さて、島崎さん…邪魔者はこうして死んだことだし改めて君を…」


「…」


彩音は再び男子たちによって取り押さえられ、服を脱がされそうになる。


「あれ?島崎さん…?」


「…」


だがもはや彩音には抵抗する気力すら残っていなかった。


目の前で人が殺された衝撃、浜田たちへの恐怖から立ち直れずに、抵抗もできずされるがままになる。


「あーあ。ショックで動かなくなっちゃったか…ちょっと興醒めだなぁ…嫌がる君を犯したかったのに…」


彩音の服が剥がれて、下着姿にさせられる。


「まぁいいや。絶望した君を汚すのもまた一興、ってね」


彩音の下着に浜田の手が伸びる。


…その次の瞬間。


「浜田君!?」


「どうしたの!?」


「何があったの!?」


「悲鳴みたいなのが聞こえたんだけど…!?」


そんな声が、暗闇の向こうから聞こえてきた。


浜田たちがいる浜辺の端っこに向けて、近づいてくる複数の足音が聞こえ出した。


「ちっ」


浜田が舌打ちをする。


「また邪魔が…」


再びズボンを履き直す浜田。


二度も彩音を手にかける瞬間を邪魔されて、その顔は怒りで染まっていた。


「ど、どうする浜田…?」


「流石にこれをみられるとまずいぞ?」


取り巻きたちが焦り出し、国木田の死体を蹴りながら言った。


「そうだね…国木田君の死体を見られるのは確かにまずいね…」


浜田が悔しげな表情で言った。


「とりあえず君たちは国木田君の死体を急いで隠すんだ。彼女たちは僕が引き留めておくから」


そう言って浜田が足音の近づいてくる方へ向かって歩き出す。


その場に残されたのは取り巻きの男子たちと下着姿の彩音。


「ど、どうする?」


「どっち優先だ?」


取り巻きの男子たちは、彩音と国木田の死体を交互に見て戸惑っていた。


彩音は今しかないと、そう思った。


「…!」


彩音は勢いよく立ち上がり、地面を蹴って下着姿のままなりふり構わず森の中へ逃げ込んだ。


「あっ!」


「くそ…!」


「逃げられた!?」


「どうする!?」


「い、今はとにかく国木田の死体を…」


取り巻きたちは一瞬逃げた彩音を追いかけようとしたが、死体を隠すのが優先だと判断し、急いで国木田の死体を持ち上げた。


「はぁ、はぁ、はぁ…翔ちゃん…翔ちゃんっ…」


彩音は暗い森の中を、方向もわからないまま、翔太の名前を呼びながらひたすら走り続けた。

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